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新学期(源田、湿川、不動)

■読書感想文(源田)

「名字」
「源田君。こんにちは」



図書室で本の整理をしていたら、知った声に呼ばれる。
振り向けば源田が歩み寄って来た。



「返却が一気に増えると図書委員は大変だな。手伝うか?」
「ううん、大丈夫だよ。これも役割だから気にしないで」



課題のヒントを探しに、こぞって図書室に足を運んだ影はもうない。
夏休みが終わり、新学期が始まった。

少し残念な気持ちもするが、こうやって友人、もとい想いを寄せる相手に
会えるようになるのは嬉しい。



「源田君も本を返しに来たの?それとも探し物?」
「本は返しに来たが、図書室にじゃなく名字に借りていた分だな」
「あっ、そう言えば貸してたね」


読書感想文を書く為に、お薦めがないか聞かれたのは夏休みに入る前。
新書ではないが、昔から好きだった一冊の物語を紹介ついでに貸したのだ。



「…えっと。…どう、だったかな…?」
「読み始めたら続きが気になって、夢中になれた。
 名字がこの話を好きだと言ったのも頷けるな」
「本当?良かった…!」



自分の好きな物を知ってもらえるのは良いが、
源田はどう感じるのだろうかと不安もあった。

彼の性格上、好みでなくともこき下ろしたりはしないのは分かっているが
敬遠されてはいないようで一先ず安堵する。



「…でも、何だか課題の為に読むのは勿体無くてな。感想文は違う本を選んだんだ」
「えっ…そう、なんだ」
「あぁ。全部課題を終わらせてからゆっくり読もうと思ってたら、
 返すのに時間がかかって…長い間借りてて悪かったな」
「あっ、いや…私は大丈夫!」



書きにくかったのかな、とまた不安が頭をもたげるが、
続く源田の言葉でそれは解消される。
相手の一挙一動で安心したり不安になったり、恋とは忙しいものだと身を以て実感した。




「大切に読みたかったんだ。折角、名字が好きなのを薦めてくれたんだからな」



もう一歩、源田と自分の距離が詰まる。
背の高い彼はその威圧感とは反対に、優しく丁寧な手つきで鞄から件の本を取り出した。

物語の一説のような動作に釘付けになる。



「またお前の好きな本、教えてくれ」



そう言って本を手渡すと、源田は外へ向かった。
彼が図書室を出た後もまだ心臓はドキドキとして落ち着かない。




「(また好きな小説の話とか、しても良いのかな…)…?」




幸福感に浸りながら返してくれた本に目を落とすと、栞のリボンがチラついた。
本毎に自作している栞を、うっかり挟んだまま源田に貸したようだ。



「(ひぇえ…もっと貸す前にしっかり確認しておけば良かった…!!)」



厚紙に可愛い模様の和紙を貼っただけの簡易な栞。
好きな相手に見せるには少し恥ずかしかったと後悔する。
…まぁ、貸した相手である源田の役に立ったというのなら、それはそれで良いのだが。

何となく気になってそっとページを開く。


「え…っ!」


章と章の間に設けられた無言のページ。
見つけて欲しいと言わんばかりに空白の中をふわりと浮いた栞は
真新しい付箋が貼り付けられていた。


そして、源田の文字でこう添えられていたのだった。



―――『好きだ』、と。








■新学期(湿川)


新学期。

夏季休暇も終わり、また新たな学校生活が幕を開ける。
とは言え、わたしのやる事もやるべき事も1学期とさして変わらずこの人のお守りだ。


「坊ちゃん、おはようございます。新学期ですね、宿題ちゃんと持ってきました?」
「煩いですね!そんなヘマ、ボクがやる訳ないだろっ」
「そーでしたっけ〜、すみませ〜ん」


おこですよ!と吠えるのは、『鬼道重機の重役の息子』の湿川陰君。
親が彼の父の部下をやっている付き合いで小さい頃から一緒にいる。
というか付き人をやっている。

よくやれるね…と言われた事は数知れないが、
慣れというものはとかく恐ろしいもので今や何て事はない。


***


坊ちゃんと校門をくぐり校舎へ向かう中、
朝練の後だろうか帝国学園サッカー部の成神君と洞面君が一緒に歩いていた。


「おーい、成か…むぐっ」
「馬鹿っ何で声なんかかけるんです!!」


挨拶しようとすると坊ちゃんに口を抑え込まれた。

何でって、私は2人と同じクラスで顔見知りだからだけど…。
まぁ陰坊ちゃんはクラス違うしサッカー部引っ掻き回したから
気まずいのかも知れないけど。

呼ばれたのを察したのか、成神君がキョロキョロとしたので
2人してその辺りの木の後ろに隠れる。

何故私まで…全く解せない話であるが、
陰坊ちゃんは帝国の制服とその髪色で見事な擬態を完成させている。
そんなにも会いたくないのか。


でも、私は知っている。

放課後、サッカー部に向かう生徒達をチラチラ気にして見ている事や
テレビで中継されているFF大会の試合を追いかけて観ている事を。
(ちなみに私は元々帝国サッカーのファンだったので
以前から試合ある時はお付き業務そっちのけで応援していた。)

そんなにもサッカーが気になるなら、謝り倒してもう一回部活頑張れば良いのにな。
(無駄に)高いプライドがそれを許さないんだろう。難儀な話である。


「…ていうかそもそも何で今更サッカーしようと思ったんですか?
 坊ちゃんがサッカーに興味持ったの本当に最近ですよね?」
「そっ…それは…、…名前が、アイツらばっか…構うから…(ゴニョゴニョ)」
「はい??」
「〜〜あーっもう!!オマエには関係ないです!余計な詮索すんなし!!」
「逆切れは余所でやって下さーい」


ははぁ、成程ね。

あんまりよく聞こえなかったけどこんな風に癇癪起こすのは私絡みだな…。
大方、帝国サッカー部で活躍して『わ〜、坊ちゃんさすが〜!見直しました』とか
そんな感じを目指していたのだろう。

…。
……。
…プランが果てしなく甘っちょろ過ぎるけど、
私に認められたい気持ちがあるっていうのは、まぁ、可愛くない事はない…のかな…?



「本当、陰坊ちゃんは私の事大好きですよねー」
「はァ?!何言ってんですか!?そんな訳ないだろ!」
「はいはい、分かりやすいツンデレゴチになります。
 でも私認められたいならまず、嫌な事でも頑張るって気概を見せて下さいよ」
「だ、だから違うって言ってるですよ!!」
「ホラ行きますよ」
「話聞けって言ってるんです!激おこですよ!?名前、コラ!!」
「成神く〜〜ん、洞面く〜〜ん、おはよーー!ちょっと話があるんだけどいーーい!?」



及第点に免じてちょろっとだけ口利きしてあげるけど、
そこから先は自分で頑張って欲しい。
そこでそれなりの成果が見えたら、ほんの少しだけ見直してあげよう。


この新学期はもしかしたら、何かが変わるかも知れない。
漠然とそんな予感がしたのだった…―――。









■課題テストの勉強会(不動)


新学期が始まれば、まず初めに生徒が顔をしかめるのは課題テストだ。
夏季休暇の課題から出るとは言え帝国のそれはレベルが高い。



「ふぇ〜HRやっと終わった。明日はテストか〜面倒くさいね不動君!」
「俺が面倒くさいみたいな言い方すんじゃねえ、馬鹿女」
「馬鹿じゃないよ、酷いなぁ学年上位成績者を捕まえて…。
 あ、因みに主席は鬼道君だったよ」
「まーた鬼道クンかよ」



面白くなさそうに不動は舌打ちした。
何かと言えば引き合いに出される鬼道は面識がなくても不動の天敵だ。
編入した時にいさえすればどちらが上か白黒はっきりつけてやったものを、
全くもって面白くない。



「それにしても、不動君は見かけによらず真面目で賢いよね」
「喧嘩売ってんのか」
「褒めてるのに」



孤高の反逆児と言う、いかにもな異名を持つ不動は一見すると不良にしか見えない。
その実、やる事はやっているので名前な密かに一目置いている。



「テストと言えば風丸君大丈夫かなぁ…
 一緒にテスト対策勉強はしたけど編入後の初テストなんて緊張しちゃうよね」
「…あ?」



初耳だ、と不動は顔を歪めた。
あの強化委員様がなんだって名前と勉強会なんぞしているのか。



「他所から来たのは俺も同じだろ、差別ですか名前チャンよォ」
「だって雷門と帝国って授業の進みが違うんだって聞いたから〜。
 不動君は見てたらしっかりしてるから大丈夫かなって。
 いや、風丸君もしっかりしてるけども」
「言い訳臭ぇ…」
「も〜ああ言えばこう言う〜。構ってちゃんなんだから〜」
「違ぇっつーの」
「アイタっ」



ぴしっと軽いデコピンを受けて額を抑えると、不動はフンッと鼻を鳴らした。
そんなに風丸を心配したのが気に食わなかったのか。



「じゃあ同じように勉強会しよ?これで平等」
「は?断る。俺もお前も授業に苦労してねぇなら、お互いに教える事ねーだろ」
「え〜そんな事無いよ!私、社会が苦手」
「あっそ」
「不動君は〜?得意な教科とか、何が苦手とか…教えてよぅ」
「…」
「折角同じクラスでチームメイトなんだから…勉強会で親睦深めようよ〜」
「…はぁ…」
「あっ、ちょっとやる気になった??」



はっそうだ皆も呼ぼう!と携帯を取り出してグループ連絡をしようとすると
その手は不動によって掴まれ、阻まれた。



「オイ、やるならタイマンに決まってんだろ」
「それは喧嘩かな??普通マンツーマンって言うんじゃないの…」
「うるせェな、どっちだって意味は同じだろ。やるのかやんねぇのか」



どこでスイッチが入ったのかは分からないが、勉強会はしてくれるつもりらしい。
それなら誘った側として『やる』以外の選択肢はない。



「先に言っとくが俺の授業料は高ぇぜ名前チャン」
「えー私も教えるから帳消しにしてよ〜。
 って言うか、不動君は意外に面倒見が良いね!」
「面倒かけてる自覚があるなら控えろや」
「そしてツッコミ上手、と…メモメモ〜。
 今日は不動君の良い所、いっぱい見つけちゃったなぁ」




まんざら嫌そうでもない表情に名前がえへへと頬を緩めていると、
不動は鞄を持っていない方の肘で彼女を小突く。

そして『言ってろバーカ』と悪態をついたのだった…−−−。



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