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愛しさで蕩けて・前(鬼道/GO)

―――12/30日、イタリア 某空港。

東京との時差は凡そ8時間。
先に進む時計の針に逆行するように空を超えて、名前は彼の地に降り立った。



「(わぁ、本当に海外なんて来ちゃった…!)」



年の瀬も迫る頃、イタリアでプロサッカー選手になった鬼道から試合に始めて招待してもらった。
何故か今までは現地入りを断られていたのでテレビの中継を観て活躍を応援していたが、
ようやくお許しが出たといった所だろうか。

今回は公式戦ではなくチャリティマッチらしい。
子供達からの投票でスター選手が集まる試合、俗に言うオールスターという訳だ。

鬼道本人がそう思っているかどうかは分からないが、出場する事はとても栄誉のある事だろう。
少なくとも活躍が公認されてきたという事なのだから。


そんな彼の晴れ舞台を見に行かない理由などない。


日本より8時間遅い時が流れるイタリアとて、名前の中の時間が巻き戻る訳ではないし、
フライト自体は約11時間にも及ぶので若干の疲労はある。
しかし、それを差し引いても先に待つイベントに心は弾む。

ぐっと伸びをして軋んだ体を起こすと、名前は意気揚々と目的地へと足を進めた。





「(有人君のプレー、楽しみだな)」





自分の事のように嬉しく思いながら手紙と同封してあったチケットで会場に入り、指定された席に向かう。
すると、既に母親と赤ん坊や妙齢の夫婦などが席に座って同じ様に顔を綻ばせていた。





「(…、ここってもしかして…)」





所謂、家族席のようだった。


理解と共にかぁっと頬に熱が集まるのが分かる。
勿論、嬉しさからだ。鬼道とは年に数回は帰国して会ってはいるし、メールのやりとりもよくしているが、
こういった形で改めて好意を示されると気恥ずかしさが押し寄せてくる。





「(有人君のお父さんはお仕事で来られなかったのかな…。
 春奈ちゃんはパスポート間に合わないとか言ってたし…)」





辺りを少し見回すが見知った顔はいないようだった。


来られない人の分まで、頑張って応援しよう。ただし羽目を外し過ぎないように。

恋人の評価を貶めるのが自分の態度なんて嫌すぎる。
幸い、端の席だったので自然と座っていく事が出来て『これも有人君の気遣いかな』など思いながら静かに試合開始を待った。











「待たせてすまない名前」
「ううん、招待してくれてありがとう!ファインプレーが沢山だったね…!
 後半入って直ぐのクロスが私、今日一良かったと思っててっ!
 点に繋がらなかったのは残念だけど凄く綺麗だったよー!」
「ふっ…、チャリティ対象の子供よりはしゃいでいるな?」
「はっ…!ご、ごめん…つい」
「構わん。お前のそういう所は嫌いじゃない」





試合は待ち合わせたカフェで思い返しても興奮が蘇るようなプレーばかりだった。
鬼道の到着を知らせる連絡が来たので急いで会計を済ませて外へ出ると、
白熱したゲームの余韻は全く感じさせない様相で鬼道が居た。





「(スーツ、素敵な色…良く似合ってるな…)」
「折角だ、観光に案内しよう」
「えっ、えっと…良いの?疲れてない?」
「久しぶりに会ったのに食事だけじゃ味気ないだろう」





自然と手を引かれ、どこが良いかと尋ねられると嬉しさが込み上げてくる。
見るべき名所は数あれど、口から出たのは観光ガイドに載るそこかしこではなく。





「…有人君の好きな場所に連れて行って欲しいなぁ」
「そんな事だろうと思っていた」
「えぇ、予測されてた…」
「好きな女の言いそうな事も分からない俺じゃないからな」
「そういう言い方ズルい、私はいつも有人君の事分からなくて頭悩ませてるのに」
「名前はそれでいいんだ。お前は色々考えると多方向に気が逸れるからな」





『俺だけに目一杯 頭を使え。他に目移りしないように』

ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべて、鬼道はそう付け足した。
何もかも見透かされているように感じて、名前は何も言えなくなってしまった。

嫌じゃないが、この何か悔しい気持ちは何なのだろうか。
例えるならサプライズを言い当てられて面白くない子供の心情に似ている気がする。


それに相手が自分を分かってくれるのは喜ばしい事なのだろうが、
人はミステリアスなものほど追いかけたくなると言うのも聞いた事がある。

特に鬼道は物事を深くまで追求する節があるので、
全部手に取るように分かるようになってしまったら『つまらない』なんて思われたりしないだろうか。




「(…)」
「…何だ、気に入らなかったか」
「えっ!?あ、いや…そうじゃないけど、目移りとかしないよ!って事」
「それは済まなかったな」
「言葉に誠意がない…」
「それなら今から見せるしかないな」




鬼道が名前に歩幅を合わせて横に並ぶと、グラスのフレームの奥から自分を見つめる紅い目がうっすらと見えた。
外気温はとても低いが、優しく細められている視線と絡むと体が芯から温かくなる気がした。


やっぱり自分は鬼道が大好きで、ずっと隣でいたい。
そう改めて自覚した。





「日本だろうとイタリアだろうとこの時期は混み合う。逸れないように手は離すなよ」
「はぁい。―――…ちゃんと掴まっておくから、だいじょーぶっ」
「っおい、」
「あっ、ちょっとビックリした…!?」
「…ふっ、そうだな。お前からなんて珍しい事もあるものだ」





ポツンと浮かんだほんの少しの不安をかき消したくて、勢いよく腕を組んだ。
一瞬驚いた様子だった鬼道ではあったが、名前にされるがままを許した。





「…嫌じゃない?」
「何を思ったか知らないが、仕方がないから許してやる」
「…うん」
「…お前だけだ」
「…、うん!」





やっぱり何かある事はお見通しらしい。
それでも甘えさせてくれる鬼道に、僅かでも影が頭をもたげた事が馬鹿らしく思えてくる。
久しぶりに大好きな人に会えたというのに、こんな気持ちで傍にいては勿体ない。
心行くまで楽しみたいし、楽しい気持ちになってくれたら嬉しい。

これから過ごすであろう時間に幸せを予感しながら、名前は行き先を鬼道に委ねた…−−−。
























*****

(2019.1.4)
リクエスト夢

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