媚薬です!

(新薬です!の続編)


形振り構わず暴れ倒し、とりあえずは腰を下ろした仙蔵の肩はせわしなく上下に揺れていた。

伊作の調合した妙な薬のお陰で体が女になってしまい、慣れないせいで少し動くだけでも息が上がる。

元より細い腕や腰は更にか細くなり、着物の肩はすかすかであるのに胸周りがやたらときついのもこの状況を一層苛立たせた。

「…それで…これはいつまで続くか分からないと言うんだな…?」

感情を押し殺した、しかしいつもより高い声色で尋ねる。

「…ご、御免ね、仙蔵。でもっ!…絶対治し方、探して見せるから…」

留三郎の後ろから顔を覗かせながら伊作が萎縮している。

背中に当たる柔らかい感触に戸惑って居るのか留三郎の目が泳いでいる。

仙蔵と違って伊作はふくよかになり、どこに触れても柔らかい感触に留三郎は困惑していた。

普段くの一教室の女子としか関わり合いが無い為、これ程体を密着させた経験など無い。

しかもやたらと体を見ろだ触れろだ迫って来るのに、正直理性を保つのがぎりぎりで平静を装うまで神経が回らなかった。

「今からもう一度本を読み返してみる。…仙蔵は部屋で待ってて。文次郎、仙蔵を宜しくね…?」

「何故こいつに宜しくされるのだ」

「だってその格好じゃうろうろ出来ないし…」

横目で隣りに座る同室の男を見やる。

留三郎とは対照的に、自分の変わり果てた姿を気にも留めていない様子で代わりに伊作を見詰めていた。

その熱心な視線に徐々に苛立つ。

「…部屋に戻る!」

さっさと立ち上がり襖に手を掛けると肩を掴まれた。

「後ろを歩けよ。誰かに会うかも知れないだろ」

そう言って先に廊下に出た背中がいつもより大きく見えて一瞬心臓が跳ねた。

「あ、仙蔵待って!これ…」

伊作が駆け寄り自分の手に何か握らせる。

「…もし使う事があったら…せっかく女の子になったから、ね?」

「…お前はまた…」

溜め息を付いて文次郎の後を追った。



部屋に入るなり文次郎はすぐに文机に向かった。

自分も同じように腰を下ろす。

沈黙が続いて居心地が悪い。
別段する事も無く、ふと自分の体に視線を落とした。

不思議な物だな…

自分がもし女に生まれていたらこの様に成長していたのだろうか。

しかしー。
伊作はあんなにふくよかだったのに、幾らか膨らみは有るものの、自分は決して大きいとは言えないのだが…

ちらりと文次郎を見やる。

自分は全く気にならないのに、やたらと伊作を見詰めていた事を思い出し再びむかむかとして来る。

…これ程に無視されると流石に意地になって来るな。

悪戯心に火が付いて四つん這いのまま近付いた。

そして何やら帳簿に目を通して居る奴の背中に抱き付く。

一瞬肩を上げたがこちらを見ようともしない。
…やっぱりこいつは大きい方が好みなのか!

かっと頭に血が上って伊作から受け取った薬を自分の口に含み、無理やり文次郎の髪を引っ張って顔を上げ口付けた。

突然の事に開いたままの口へ流し込む。
ごくりと飲み込む音が聞こえた。

「お前っ…何だこれ!」

「お前が悪い。…そんなに私の体は欲情しないか。ならば…無理やりさせてやる」

どんっと畳に押し倒しその上に馬乗りになる。

するりと肩から着物が落ちた瞬間、文次郎がばっと自分から顔を背けた。

「何故見ない!そんなに…そんなに伊作みたいな体が好きか」

そう言うとすぐに視線が戻った。

「…何だって?」

「…だってお前、私には目もくれないのに伊作ばかり見ていたし、ふくよかな体が好きなのだろう」

「…」

「不本意でこうなったが、ここまで無視されるとー」

そこまで言うと腕を掴まれて抱き寄せられた。
厚い胸板に体が熱くなる。

「馬鹿か、お前は。欲情…しない訳無いだろうが!歯止めが利かなくなるからわざわざ見ないようにしてるんだろう?…なのに変な薬飲ませやがって!どうすんだ、これ…」

太腿に当たる硬い物に気付き一気に顔が熱くなった。

薬のせいか自分の体のせいか、いつもに増して男らしくなったそれに困惑する。

「…後悔しても知らないぞ。もう我慢しない。仙蔵…嫁に来いよ」

「馬鹿もんじ…あっ」

ゆっくりと胸に伸びて来た大きな手が熱くて思わず目を閉じた。



「どうしよう…僕、仙蔵に大変な事しちゃった…」

涙目で例の本を捲る姿を後ろから見守る。

差し出されたお茶を飲みながら、視線は随分と長い間伊作の背中に注がれていた。

それにしても…可愛い。

こいつが女ならこんな感じだったのか。
間違いなく惚れてるな。

正に俺好みと言った姿につい見とれてしまうが、それを言ってしまえば今朝言われたようにやっぱり女が好きなのかと責められそうで口に出せない。

俺はあくまでも伊作が好きなのであって、こんな状態のこいつに手を出す程猿では無いと言い聞かせていた。

「僕は良いとしても仙蔵は戻してあげないと…」

「お前は良いって…戻りたいだろ?俺もどう接したら良いか分からねえし」

「…留、もし僕がこのままだったら…どうする?」

「…そりゃお前、このままだったら…俺が嫁に貰ってやるよ。ただ、どうしても戻らなかった時だけどな」

伊作の動きが止まりゆっくりとこちらを振り向いた。

その表情は何故か険しい。

「…僕、留が好きだと思って女の子になったんだけど…全然触れないね。…怖いの?」

「怖いって…何が?」

「女の子の僕を抱くのが」

「!!…抱くって、俺は絶対そんな事しないぞ。べ、別に女のお前をどうこうしたい訳じゃ無いし」

ずりずりと伊作が近付いて来て思わず目を逸らす。

「ふぅん…なら何故こんなになってるのかな」

そう言って伊作が自分の下半身を指差した。

…いつの間に!?何だこれ!

無意識にはしたなくなっている自分に驚き、耳まで熱くなるのを感じる。

「いや、これは誤解だっ!俺はそんな猿じゃ無い!」

「全然説得力無いよ?ねえ、留…やっぱり、嫌?」

上目遣いで首を傾げる姿に何かがぷつりと切れる音がする。

「伊作!」

畳に押し倒しがばりと伊作に覆い被さった。

きゃっ、と小さい声を上げ自分を見上げる。

「…俺はお前が好きなんだからな。これだけは言っておく」

「うん…留、大好き。本当にこのまま戻らなかったらー」

「俺の嫁になれよ」

そう言って口付けすると嬉しそうに笑った。

「あっ、留…何か、いつもと違う…んっ」

我慢していた欲が一気に放たれて貪るように伊作の体を愛撫する。

いつもと違う状況からか一度きりで収まるだろうか、と一人で考えていた。



「…あれ、戻ってる」

隣りで死んだように眠る留三郎には聞こえていない。

確かにあれだけ何回もしたら、と寝顔を見下ろした。

「お茶に媚薬を溶かしておいた、なんて言ったら怒るだろうな。でもああしないと抱かないだろうし…」

いつもと違う感覚で気持ち良かった、と呟く。

「戻ったのは時間かな。それともまぐわったからかな。…まぁ戻るって分かったし、残りは取っておこう♪」

そう言って引き出しに紫色の薬をしまった。

仙蔵の部屋に行くとやっぱり仙蔵も既に男に戻っていたけど、机の上に封を切った媚薬の袋が見えて、治し方はやっぱりそっちなのかと一人ごちた。

(完)


明里様、「女体化黒伊作・黒仙蔵で媚薬ネタ←からの結局嫁が可愛い結末」リクお待たせ致しました!
何だか二人とも黒くないですし、可愛い結末から程遠い気がしますがお許し下さい( >_<)




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mokuji



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