新薬です! 「という事で仙蔵、こんな形の花が付いた薬草なんだけど…」 伊作から手書きの絵を受け取る。 絵には「紫色の花びら」など説明も書かれていた。 念の為、もう一度聞いてみようー。 「…これがあれば新薬が出来るのか?お前の言うようにー」 「そう!多分後は医務室にある物と組み合わせればね。…“女の子になる薬"が!」 そう言って伊作はふんっと鼻を鳴らした。 そもそも話は朝餉の頃の食堂に遡る。 話題の提供者は小平太だった。 「昨日町で春画本を買ったんだ。誰か貸して欲しい?」 朝から何て下世話な話だ。 味噌汁を飲みながら小平太を睨む。 伊作は驚いて箸で摘んでいた小芋を思わず落としている。 しかし小平太も我々二人に元々尋ねている様子も無く、視線は文次郎と留三郎に向けられていた。 二人共一瞬固まったが、ちらりと同時に自身の恋人を見やる。 様子を窺うような表情が何とも情けない。 「そ、そんな物必要無いな」 「お、おう、全く興味無いぜ!」 顔面に”見たい”と書いてあるだろ、馬鹿どもが。 それを見た伊作の頬がぷうっと見る見る膨れて行く。 途端に留三郎が冷や汗をかくのが分かった。 「…留は女の子の体が好きなんだね。ふうん。貸して貰えばいいじゃない」 そう言ってさっさと空の食器を返しに立ち上がる。 「い、伊作。おい…」 慌てて留三郎が残りの飯を口に放り込み、既に食堂から出ようとしている伊作の後を追った。 「あれ?いさっくん、何か怒って無かった?」 「…お前のせいだ」 長次が呟いた。 「もんじは?この前貸して欲しいと言ってたじゃー」 「言って無い!断じて言って無い!」 全力で首を左右に振り続ける奴に言い放った。 「借りれば良かろう。私はそんなくだらん事では怒らんぞ。思う存分見れば良い」 「…」 十五の健全な男子だし女の体に興味があるのは当たり前だ。 取り立てて騒ぐつもりは無いし、伊作のように可愛く拗ねる事も無い。 奴が自分の顔色を窺っているという事実だけで面白いと思う自分も相当末期だと思った。 結局その場はそれでお開きになったのだが… せっかくの休校日、裏山辺りで火器の練習をしようと出掛ける用意をしていたら、伊作が何やら書いた紙を持って部屋に飛び込んで来て現在に至る。 「…本当にそんな薬が出来るのか?」 「出来る…と思う!新しく手に入れた本に書いてあったんだよ!」 「もし出来たとしてお前、試す気か?」 「勿論じゃない!ていうか仙蔵も飲むでしょ?」 …勘弁してくれ。 全くそんな気は無い。 巻き込まないで欲しいがしかし、伊作にきらきらした目で見詰められると口には出せなかった。 「女の体になって…どうする?」 そう尋ねると伊作は若干頬を赤らめて留に見せる、と呟いた。 はぁっと溜め息を付き、裏山に向かった。 嘘かと思う位に例の薬草はすぐに見つかった。 伊作に手渡すと一目散に医務室に篭もり、小一時間程経った頃右手に何やら紫色の毒々しい液体を持って部屋にやって来た。 「出来たよ!絶対成功だよ!さぁ、仙蔵っ」 「ちょ、ちょっと待てっ!…伊作、お前先に…」 「え?僕、もう飲んじゃったよ」 「なっ…!!」 首を傾げる伊作の顔から視線を外し体を見やるが何も変化は無い。 やはりそんな薬など存在しないのだ。 びくついていた自分が恥ずかしい。 目を閉じてそう考えていると、口の中にどろりとした物が入って来て思わず後ろに飛び退いた。 「ごほっ…!い、伊作…!」 「だって仙蔵約束破るから〜」 「約束…などしていない!まずっ…!」 予想以上の破壊力に気付けば厠へ走り出していた。 とんだ日になった物だ。 伊作は思い込むと周りが見えなくなるからな。 特にあの馬鹿が絡むと…。 厠へ飛び込み吐き出そうとするが既に遅い。 ならば井戸で口を濯ごうと体を起こした。 …何だか違和感が無いか? 胸が重たい…それと… 下が軽い…? ばっと体に触れると無い筈の物が有り、有る筈の物が無い。 一気に血の気が引いて行く。 まさか、そんなまさか… 頭が真っ白になり一歩も動けないでいると、厠の戸を叩く音が聞こえた。 「…仙蔵?居るんだろう。伊作に迎えに行けと言われて…」 「来るな!何故お前が来…!」 声まで変わってるじゃ無いか! 最悪だ! 頭を抱えて戸にもたれた。 「…伊作、だよな?」 用具室から部屋に戻ると何だかいつもと雰囲気が違う。 顔が丸くなって、体も一回り小さくないか? 兎に角、何故か本人は嬉しそうでは有るが… 「留さん、あのね…」 「お前、声どうした」 焦りながら質問をする自分を無視し、伊作が正座したままずりずりと近付いた。 「女の子の体、見たい?」 「…は?」 思わずぽかんとすると伊作がいそいそと服を脱ぎ始める。 「何して…」 いつもより白い肌に目を奪われる。 と言うか…伊作に胸が有るが…何故? 一気に顔に熱が集まる。 「僕、留さんの為に女の子になってみた」 「…え」 「だから春画なんて見ないで僕を見ればいいよ」 ニコリと笑う伊作を余所に色んな考えが頭を駆け巡る。 …考えても分からない。 許容範囲外で倒れそうだ。 と言うか俺の理性はもうぐらぐらだぞ。 俺の為にって…可愛過ぎるだろうが! そうしていると伊作が自分の胸にすっぽり収まって来た。 いつもと違う柔らかさに体が固まる。 やばいって! 「ねえ、見ないの?因みに下もー」 「…伊作!見ちまったらそれだけでは済まないから、頼む、服着ろよ」 意味が分からないのかほぼ裸のまま、じっと見詰めて来る。 「いいよ。僕もどう違うか試してみたいし」 「…」 なるほど、分かってやってるのか。 溜め息を付きながら尋ねる。 「…いつ男に戻るんだよ?」 伊作の肩が一瞬上がり嫌な予感がする。 「…本に書いて無かった…どうしよう留!」 「…ああっ、も〜っ!!」 服の上から文次郎の着物を羽織った仙蔵が、怒鳴りながら飛び込んで来たはいいが、留三郎の後ろに隠れた伊作に謝られ、宝禄火矢を投げまくるのは暫く後のお話ー。 (完) 明里様、馬鹿話でしたね、すみません。゚(゚´Д`゚)゚。 「留伊で阿呆のは(笑)でラブラブ なギャグと巻き込まれ文仙 」リクでしたが伊作が馬鹿なだけになってしまいました↓↓ ←/ → mokuji top |