同窓の話〜神崎左門の場合〜












「あれ?左門、制服の右肘んとこ解れてるよ」

朝餉の席、日頃から他人の体調管理ばかりしている不運な同窓が、流石の観察力と言う所か、投げ掛けた質問に当の本人は首を傾げた。
腕を捻って肘を覗き込めば、確かに一箇所だけ擦れたように糸が出てしまっている。

「おお、本当だ。何かしたかなぁ…全く覚えがないが」

「どうせおめえの事だから、迷子になった先でうろついて擦ったんだろ」

そう意地悪く言ってやると「そうか!」と一旦は納得した後、打って変わって口を尖らせた。

「作兵衛!僕はもう五年生だ!胸を張って言う事じゃないが、焦って走り回る事もしないぞ!」

「…落ち着いて迷ってると?」

「そうだ!」

「あははは!そっちの方が笑えるじゃん!」

自信たっぷり肯定した瞬間に隣りで思い切り吹き出した片割れを、向かいに座る”備えあれば憂いなし”をモットーとする同窓が諫める。

「三之助!お前が言うなよ!」

「え?俺?何で?」

「何で?じゃないッ!孫兵!何とか言ってやれよ!」

「ん?ああ、そうだね。迷う忍者とか、冗談としか思えないよね」

「蛇巻いてる忍者もな」

皆が好き勝手に言い合う中、はたと箸を止めて暫く呆け、「ああ、そうか」と呟いた。
奴を包むその色は言うなれば桃色だ。

「左門?」

「いや…思い当たる節があったんだ。しかし余り格好良いものじゃないから、皆には黙っておくかな。当て布でもしようかと思ったが、これはこのまま置いておこう」

そう言いながらあからさまに嬉しそうに笑う。
赤目の先輩がこいつと歩く姿が目に浮かんだ。

「…成る程な。確かに直した所で、お前の方向音痴が治らねえ限り無駄だろうな」

「ははは!いつか隣りを歩きたいもんだな!」

隣りを歩きたいー
忍びとして、男として、あの人と肩を並べて歩けるような人間になりたい。

「取り敢えず、1人で委員会に行けるようになれよ」

「ああ!」

笑った顔が余りに自信に満ちていて、疑いようがない。
でもまあ、前しか向いていないお前は知らないだろうな。
後ろからお前の袖を引っ張るあの人が、場違いに嬉しそうな顔をしている事を。
方向音痴が治らない理由は、あの人が少しでもそう願っているから、とか。

「しかし、昨年までは袖が痛むことはなかったのだが」

「…お前を掴まえたい気持ちが強くなったんだろ」

「え?なんだって?何て言った?作兵衛」

本当に聞こえていない様子で顔を覗き込む。
男らしいのは結構だが、いい加減前ばかり向くのを止めないと、一生片想いだと思い込んだまま死ぬぞ。

「知らねーよ、この馬鹿」

「馬鹿とは何だ!酷いぞ、作兵衛!」





(完)





しのぶれど 色に出にけり わが恋は
ものや思ふと 人の問ふまで

袖には三木の手垢が沢山付いているのでしょう(*^o^*)


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