6.ドア越しのあなた
前の晩
明け方まで休まず、原稿を書いていた私は、お昼過ぎの意外な電話で目が覚めた。
全身を襲う倦怠感から這い出るようにゆっくりとベッドサイドの子機へ手を伸ばし、顔はマットに突っ伏したままの体勢で子機を手に取った。
「ん・・・。ヨボセヨ」
「先生。」
「ん?川田?どうしたの?」
「今晩のご予定は空いてますか?」
「ええ…空いてるけど。・・・?ってあなた昨日帰国したんじゃないの?」
川田の言葉でやっと脳が回転を始める。
「明日です。実は今日と明日、公休とりまして、今日は買い物と観光をしてました。」
私の問いかけに少し小さめの声で答える川田。
「そうなの、言ってくれれば案内したのに」
まったくそんな気は無かったが、社交辞令が口から出てきた。
「先生お忙しいかなって思ったので。」
そう、珍しく恐縮して答える川田が可愛かったので「それでどうしたの?」と話を切り出すチャンスをあげた。
「なので・・・どこかお食事に・・・」
「案内してほしいのね・・・」
私は苦手な彼女の少しかわいい部分を見て、微笑んだ。
「じゃあ、・・・そうね。夕方6時に迎えに行くから、それまでにワンピースとか少しかしこまった洋服に着替えていなさい。」
「はい。じゃあ早速きょう見つけた可愛いワンピースがあるのでそれを着ていきます!!」
私は彼女の滞在先を電話の横のメモに残すと、「遅れないでね。」といい電話を切った。
私はそのまま一度布団にダイブしてみたものの、完全に飛んでいってしまった眠気にため息を一つ落とし、バスルームに向かった。
蛇口をひねり、思い立ったように裸のままリビングへ向かう。
愛用している防水のCDプレーヤーと冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出た。
その時かすかに隣から聞こえた声。
昨日の光景を思い出した。
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