Novel
クチハテ

『第一章』

 〜ウタガウモノ〜

 今日は二月七日。
 何かの記念日かもしれないし、誰かの誕生日かもしれない。
 それと同じように、私の誕生日である今日も、誰にも気づかれないまま0時が過ぎた。
 私のいる櫻孤児院は、夜九時が消灯時間。
 小学生や、幼子の混じった部屋では、何一つ自分の居場所は無い。無いからこそ孤児として扱われているのだ。
 『孤児……』
 いつ、何度聞いても嫌な言葉。
 けれど、どう足掻いても0へ戻せない数字を見つめることしか出来ない。それが現状。
 「こんな世界なんて大嫌いだ」。
 そう呟いて、哀架は薄く冷たい布団へもぐり、目を瞑った。
 一人の朝が来るのを恐れて、同時に恋しい人の姿を希望に朝を待った。

 私が目覚めたのは、ちょうど近所の学校の三時限目のチャイムが鳴ったとき。
 寝過ごしたなんて心配は要らない。そんな朝が大好きだった。
 理由なんて知らない。だって考えたことも無かったから。
 私と同室である、岬ちゃんと未怜ちゃんは
、早々に起きて砂場で駆け回っていた。
 私はそんな二人を、怪我をしないか、などと心配して、室内で見守っていた。
「哀架さん。きちんと朝食を食べないと、
体に毒ですよ」
 そういう洟娑未先生は、私の隣に座った。
 『今、そういう気分じゃないの』
 先生の暖かい言葉を邪険にして返す私の返答は、いつものことだった。
 「哀架さんはいつもそういうけれど、朝食を朝に食べている姿は数えるほどよ」
 冷たい言葉を放っても、なお心配してくれる洟娑未先生。
 「一々干渉しないで」。
 そう言おうとした私の口は、とっさに閉められた。
 何もしていない、ただ心配をしてくれる先生に、そこまで言うことは無いだろうとおもったのだ。
 『学校に行ってきます』
 誰かに告げるわけでもなく、呟くようにして立ち上がった。
 軋むフローリングの廊下を通り、院の出口であるガラス扉に向かう。
 そっと戸を開けると、空はきれいな青に染まっていた。
 まだ少し肌寒い季節だが、周囲の雪は、溶けはじめていた。



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