私には、最近再び親しくなった親戚の女子がいる。その彼女は私と同じ中学二年生の水川みのりちゃんだ。私の従姉妹叔母(いとこおば)にあたる。
私の祖父母は、病院を経営をしていて、理科系の勉強は得意だった。本当は、物理学や地球科学、環境科学が選びたい道で、天体観測イベントなんかは数年先の日食までそらで言えるくらい。でも、両親は、科学系の読み物をよみふける娘も、医学にも役立つだろうからと、図書にお金を惜しまないでくれていた。
ある時、みのりちゃんが交通事故にあって、重態になったと聞いた。ある日、面会に行くと、部屋が騒がしかった。今日か明日には死ぬかもしれませんと、説明していたらしいのに、奇跡が起こって目を覚ましたという。
個室に入院していたみのりちゃんのところへは、その後、数日は通った。そう、水川夫妻から聞くと、みのりちゃんの様子がおかしいという。記憶の混乱として、リハビリに付き合うようにみょうじ夫妻へなまえちゃんが同い年だからと、頼んだら、許可を出したとか。
退院の日、行きたいところがあるとみのりちゃんが言って、私が付き添うことになり、こっそりとある計画についてまわった。入院中に聞いた、みのりちゃんからの告白、いや、ポトムリ・エムナトル、彼からの告白。
宇宙を救わないといけないという話を聞かされた。ピエロの人形を一緒に持ち歩き、ポトムリの精神体が人形に移って動く間のみのりの体の保護と監視。
「ブラックホール自体は、どこの銀河にもあるから、他人事ではないものね。できることならなんでも協力するよ」
告白を聞いて、みのりの姿をした彼はこたえた。
「なまえは予想以上に宇宙への知識が備わっていて、びっくりしたわ。宇宙人たちへの興味も、すぐに示して、キエル人ということも、疑わずに信じてくれた」
「だってここに居るでしょう?優秀な工学の科学者が」
彼とは、長く共に過ごして、宇宙のいろんな法則を教えてもくれた。途中、サッカーに強い執着心を持つある老紳士とも顔を合わせた。みのりの体の保護を頼んで、人形で会いに行っていたものの、これから先はこの老紳士、黒岩流星さんとも関わらないわけにはいかないらしい。
黒岩さんは、ポトムリの願いに応じてくれるという。サッカーの日本代表の監督に就任するという。
「マネージャーに加われば、いくつかの惑星と、ブラックホールに呑み込まれかけているファラムオービアスに連れて行けるから、なまえを推薦してあげる」
みのりの姿で言うそのセリフ、本当に嬉しかった。
「嬉しい!地球科学の発展に役立てると誓うわ!」
偽りの召集に応じた11人の選手と、もう一人の女子マネージャーと、アジア予選に臨んだ。みのりちゃんのそばにいるだけではなく、マネージャー業をしなくてはならなかったが、宿舎では私と葵ちゃんとみのりちゃんの三人が同室で、楽しく過ごせた。選手は個室だし、監督や管理人さんはそれぞれの部屋だが、この三人で同じ部屋で寝泊まりできるのは、楽しい時間だった。
知的で大人っぽい余裕のあるポトムリ。もう死んでいる霊体だから、彼には、ある種の悟りの境地を持つようで、肉体的、社会的に協力する私とみのりへの感謝の気持ちを持って、私の耳へその言葉を聞かせてくれた。
「水川みのりと、みょうじなまえには、私が目的を達成するまで、協力を強いてしまうけど、ありがとう、なまえ」
「私だって、ポトムリが宇宙の危機を知らせてくれたこと、地球を代表してお礼をいうよ」
そういって、人形へ笑顔を向けた。

ギャラクシーノーツ号へ乗って、私は宇宙へもついていった。みのりは、少しずつアースイレブンたちへ宇宙の異変や、母星キエルのこと、そしてポトムリ自身のことを明かしていった。複雑な思いだった。
カトラ・ペイジは、松風天馬くんに恋をしていて、恋愛感情を伴った信頼を寄せている。そして、ポトムリは、生きていた時の恋愛感情を保持していて、カトラへ向いている。それに、悋気(りんき)を持つ私がいた。こんな醜い感情を持つ自分に、自己嫌悪した。
「カトラ様が生きておられたとは…」
松風天馬くんの部屋でみたとか。私は、それに対して、苦い顔をして、うつむいていた。
「なまえ?」
すぐに顔を明るくしてこたえる。
「ポトムリの悲願が、叶うといいね」
無理して言っていたが、きっと彼は気が付かない。目的のためだけに必死だから。
希望の欠片が揃って、みのりごとさらわれた時の会えない間は、生きた心地がしなかった。みのりちゃんを守ることも、ポトムリの願いを叶えることも、できなくなったかもしれないと思うと、苦しくて仕方なかった。松風くんを含め、アースイレブンたちも士気が落ちていた期間だった。
いまは、ファラムオービアスで、再会した。イクサルの反抗勢力が復讐を旗印にしていた。そんな中、ここで勝っても負けても、ポトムリとお別れになる…そう感じた私は、カトラのいる前で、ポトムリへ気持ちを伝える。
「ポトムリ、私は、あなたに出会えて良かったと思うの。ポトムリのこと、ずっと忘れないから。宇宙での経験を地球に持って帰れたら、役立てるから。私はポトムリがずっと、ずっと、大好きだよ」
ポトムリは、悲しそうな様子で、私へ語りかける。
「なまえは、よく協力してくれた。宇宙工学については、よく聞いて、質問もしてきて教える時間は楽しく過ぎた。私が見えなくなって、言葉も届けられなくなっても、ずっとみていよう。地球と、地球の仲間を大切にして、なまえには幸せに生きて欲しい」
カトラが声をかけた。
「なまえさんのことは、ポトムリから聞きました。地球からずっと助けてくれたと。なまえさんからしたら、自分の星である地球を守るためでしょうけど、ありがとう」
そして、ブラックホールを消した後、ポトムリはアースイレブンの人々や、みのりちゃんへ感謝しながら成仏していった。
抜け殻になったみのりちゃんを抱き締めながら、泣いた。
そして、地球へ帰ってからは、みのりちゃんや、宇宙へ行く機会があることによって知り合った人と、交流を持ち続けた。ポトムリが見ていてくれることを願いながら、私は中学校を卒業する前に、工学系の高等専門学校と、私立の有名進学校を受験した。彼との交流で得たものを活かせる道はどちらかはわかっている。
きっと私のこと、みているよね、ポトムリ。
Fin.


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