第4章
深く息を吸うと、それは長いため息に変わった。
「あー……」
ずるずると、体の芯から力が抜けていく。立てた片膝に額をつけて、ログズはしばらく何も考えずにそうしていた。思い出話を聞くなんて、慣れないことはしてみるものじゃない。強いていうなら、その思いだけは延々と頭を巡っていた。
「……なんだアレ。性質わりィ」
振り払うように、がしがしと髪をかく。ターバンが緩んで、鼻まで落ちてきた。
ログズは舌打ちをして立ち上がると、服についた砂をはたいた。もう少し一人になりたいところだが、あまり長くいすぎて、探しにでも動かれたら困る。夜の砂漠ではぐれるなど、冗談にもならない。
歩きながら、ターバンを巻き直して頭を切り替えた。
「おーい、戻ったぞ……ん?」
そうして、いつもの調子で声をかけたとき。焚火の傍に、タミアの姿はなかった。
なんだあいつもションベンか? と、ぱちぱちと燃える火の音を前にまばたきをする。拍子抜けしたような、どこか落ち着かないような、何とも言えない感覚だ。
いや、別にそれくらい、勝手に行ってくれていいんだが。
ログズは心の中で自分に言い聞かせながらも、何となく腑に落ちない気がして、一度下ろした腰を上げた。女というのは往々にして、恥ずかしいとか言いづらいとかいうよく分からない理由で、手洗いに立つのをこっそり済ませようとしたりする。どうせ戻るのは男のほうが早いのだから、結局はばれるのに。
だから例え飾り気のない田舎の小娘といっても、タミアがそうしたっておかしくはないわけだが――でも、あのタミアだ。生真面目と要領の悪さを足してかけたようなあの少女が、一言の断りもなく、席を外すだろうか。
まして、火をつけたままで。
最も腑に落ちないのはそこだった。ログズは辺りを見回してから、焚火の周りをゆっくりと歩いた。それほど色々な姿を見てきたわけではないが、自分の知っているタミアならば、火の元を無人にはしない。そんな気がした。
不可抗力の理由がない限り。
「んん……?」
焚火のすぐ近くに、火から離れて歩き出しているブーツの足跡が残っていた。一歩、二歩と視線を動かしていくと、引っかいたような線が目に飛び込む。
ログズは眉間に皺を寄せて、線の先にある方角を睨んだ。暗がりの中には何も見えない。確か、古い遺跡があったような気はするが。
「どこ行った?」
探るように、線の上に足を下ろす。
そのとき、遠くの空に、大輪の花火が咲いた。
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