4:商隊兵団


 商人たちがその役目を担っていたというのなら、あれだけの広い市場でありながら、調和が保たれている理由もわかる。だが、理解できることと驚くことは別だった。商人であり兵士など、ルエルにとっては聞いたこともない立場だ。
「あそこにいた商人、全員がそうなのですか?」
「白の間で店を構える条件が、それだからな」
「皆さま、あまり剣を持っていたようには見えなかったのですが」
「はは、それはほら、目に見えすぎると物騒だろう。何より、見えるということは取られやすくなる」
「取られる……」
「滅多にいないが、まあ、たまにいるんだ。客に紛れてやってきて、高価な品を狙う盗賊や泥棒が。そういう輩に、剣を奪われたら危険だからな」
 大抵、服の下で身につけているか、荷物の中に忍ばせてあるのだとジャクラは言った。剣以外にも、棒でも槍でも、分かりにくいところに持っていられるものであれば何でもいいらしい。王宮は商人たちに、大きな信用を置いているようだった。
 その見張りの対価としての、帝国で最も名誉な市場での営業権、というわけだ。
「最初に会った、織物屋のムラーザだがな。あれは父上も一目置く、相当な使い手だ。顔を覚えているなら、そのまま覚えておいて損はない」
 分かりやすい顎鬚だろうと、ジャクラは笑う。確かに、髭をたくわえた商人はそれほど多くなかった。風貌といい、水煙草といい、印象は強い。
 覚えておきます、とショールの結び目に手を当てて答えれば、ジャクラは頷いて歩廊の彼方に目をやった。
「できる限り、誰か共を連れていくようにと言いたいところだが、今のお前の立場では誰でもいいというわけにもいかないだろう。俺か、それこそハーディか大臣たちでなければ、変に注目を集めて囲まれてしまうかもしれない。俺が行けるときはいいが、いつでもというわけにはいかないし……宮殿の奥だけで過ごしているのも、飽きるだろう」
 最後のほうはほとんど独り言に近く、ルエルは並んで歩きながらも、返事をして良いのか少し迷った。
 王宮は十分に広い。図書館もあれば、タペストリー室も出入りを自由にしてもらっている。まだまだ飽きる≠ニいう感覚には程遠い気がするが、それでも確かに、今日のことを思い返すと胸が晴れやかになる。
「まあ、また行きたくなったら言ってくれ。休みには、俺からも声をかける」
「はい」
 ルエルは素直に頷いた。ジャクラが一緒に行ってくれるのであれば、それが一番いい。人々の目にも余計な誤解を生むことがないし、何より彼は、寄り集まってくる人々のあしらい方に慣れている。
 青の間の門をくぐるとき、客として来ていた人々から引き留められそうになったルエルを引っ張って、繋がれた手は今もそのままだ。
 じきに藍の間の回廊を渡る。もう人波はないから大丈夫だと言うタイミングをずっと逃して、ルエルはどうにも落ち着かない心地で、中庭に目を向けた。


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