18 ユーティアの戦い


 考え出すと止まらなくなると分かっていたから考えないようにしていたのに、ユーティアは気づけばローズマリーやレモングラスに手を伸ばし、自分の庭で育ったものではないと分かっていながらも、愛しさを抱かずにはいられなかった。
「作ってもらいたいのは、主に痛み止めと止血薬だ。言うまでもないだろうが、戦場に送る。施設は古いが、材料はすべて新しく揃えたものだ。効果があるなら、どれを使っても構わん。足りないものがあれば、書き出して見張りに渡せ」
「見張り?」
「貴方がこの部屋にいる間、扉の傍に、常に一人ついておくようにと言われている。作業の邪魔にはならない。出入りするときは、必ずその者と共に移動するんだ」
 ユーティアは薬草棚に手をかけたまま、思考を巡らせた。ウォルドは看守を二人つかせたとき、それがユーティアの脱走を阻止するための策だとしていた。けれど今後、薬作りの仕事にあたって自分を見張るのは一人だという。
 仕事という名目があるにせよ、牢から出そうという時点で、投獄された当初は考えられなかった対応の変化である。脱獄の心配は少ないという判断がされたのかもしれない。ユーティアは改めて、室内を見回して深く息を吸い込んだ。
 これは王からの、従軍を頑なに拒み続けた自分に対する妥協であり、試練であろう。戦地へ赴かないというのなら、せめてここで薬草魔女として役に立ってみせよということだ。断れば逆らったと見做され、逃げ出したり、上手くいかなかったりすれば信用を失う。囚人であるユーティアにとって、選択肢は初めからない。
「分かりました」
 それに、ユーティア自身にとっても悪くない話だ。
 あの石の塔で日がな一日過ごすのは、もう限界に差しかかっていた。薬作りは良い気晴らしになるだろう。この調合室は設備も良いし、戦地で過ごす同胞の仕事を、微力ながら手伝えることも嬉しい。
 何よりドアを一枚隔てて、窓を一枚隔てて、この場所は外に繋がっているのだ。外には他人の声と会話が溢れている。牢屋にこもっているときの何倍、何十倍の情報が手に入るか。それを思えば断る理由はなかった。
 兵士は仕事について簡単な決まり事を話し、材料や道具のことについて、いくつかの質問をして頷く。
 ユーティアの一人きりの、忙しい日々が始まった。


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