7 魔女ベレット


 自分以外のグリモアを隠す魔女に、初めて出会った。そもそも魔女の知人自体めずらしいわけだが、サロワにいた魔女などは特に隠していなかったし、隠す必要はないと堂々としていた。沈黙が明るい黄緑色の水面に落ちる。
 先に動いたのは、ベレットだった。
「これ、私のグリモア」
「え?」
「中身はトップシークレットだけど、お近づきの印に外側だけ見せてあげるわ。まあ、今さらだけど魔女っていうのが嘘じゃないって証拠としても」
 後ろに置いた大きな鞄から、グリモアを取り出す。差し出された分厚い本に、ユーティアはそっと両手を伸ばした。
 空き箱のように軽い、この重さ。そして、厚み。間違いなくグリモアの特徴だ。
 装丁は革のような質感の深い赤で、まるで本そのものが窓であるかのように、窓枠を模した木の囲いがつけられていた。表紙、裏表紙ともに、四角い枠の中をさらに木が十字に区切っていて、夕日の燃え盛る窓を見ているようだ。
 その二本の木が交わる中心に、海のように目映い、青い石が埋め込まれている。
「……綺麗」
「そう思う?」
「ええ。あなたの目の色と同じ。赤っていうのも、まっすぐで迷いのない色じゃない? 私、あんまり赤いものって持っていないんだけれど、この赤は好きよ」
 強すぎる色は、それだけで気持ちを左右させるから苦手だ。でも、ベレットのグリモアに対しては、そういうマイナスの感情が湧かなかった。質感のせいだろうか。はたまたそれが深紅というには明るく、朱色と呼ぶには静けさのある、不思議な魅力のある色だったからか。
 強い色だとは思った。だが、悪い強さではなかった。
 ユーティアは自分も二階からグリモアを持ってきて、ベレットに差し出した。彼女のグリモアと同じく、空き箱のように軽くて厚い。受け取ってしばらくの間、ベレットはそれをじっくりと眺めていた。表紙を囲む金の装飾が、彼女の手の中で眩しく輝く。
「重いわね」
 やがてベレットがぽつりと漏らした感想に、ユーティアは「え?」と首を傾げた。重さは彼女のものと変わらないと思ったのだが、違っただろうか。
 ベレットがそういうことじゃないのよ、と首を横に振る。ぽん、と返されたグリモアを受け取るとき、彼女が言ったことが深く印象に残った。
「持ち主に似合わない、重々しくて王様みたいな本だわ」
 思わず、目を見開く。しかしベレットはそれ以上、グリモアについて触れることはなく、残ったオムレツを口に運んで、思い出したように笑顔を浮かべた。
「私、コートドールに住むから。これからよろしく」


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