第十二幕


 石畳の続く道を、再び一人になって歩く。色も形も様々な店の通りを外れると、短い坂が現れた。少し高台へ上って、町を振り返ってみる。額のない風景画のようにどこまでも広がる町並みの向こうに、象牙色の城が覗いていた。
「――――」
 背中から吹いてきた風が、シャツの裾を膨らませて坂道を下っていく。かすかな潮の香り。後ろを見れば、こちら側は海へ続いている。
 小さき国、と称されることもある王国だ。しかしこうしていると、どこに立ってもその全土を一望することはかなわず、この国はなんて広いのだろうと思わされる。
 ――幸せに。
 吹き寄せるそよ風に、またそんな声を聞いた気がした。ああ、と静かに瞼を伏せて、その音に耳を澄ませる。遠く、海鳥の鳴く声。どこかの家が窓を開け閉めする音。荷車が石畳の上を、小刻みに揺られながら進んでいく音。そんなものもあった。
 ハイエルは目を開けてからも、しばしその場に立って景色を見つめていた。


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