第三幕


 ベッドの上で目を覚ますと、時計の針はようやく三十分動いたかどうかという程度だった。ぼんやりとする頭で、視線を窓へ動かす。
 青白い満月が浮かんでいた。ごつごつした黒い岩も、足元に咲く光の花も街灯も見当たらない。
 ――でも、確かにあの場所に行った。
 ハイエルは自分の体を確かめたが、そこには正装に包まれた身も、手のひらについた石の跡もない。ただベッドに入ったときと同じ、部屋着姿で横になっていた。上体を起こして、あちこちを手探ってみる。ポケットに入れていたはずの、伽羅の香袋はどこかに消えていた。
「あれが……」
 見つめる虚空にぼんやりと、少女の顔が思い出された。あれが、ライラ。十八年間、その名前だけを思い続けてきた少女。トコロワへ行ったという証拠は何一つ残っていないのに、ただの夢ではなかったと、未だ落ち着きなく跳ねる心臓が鮮明に語っている。
 ハイエルはしばし、時計を見つめてこの三十分間のことを思い起こした後、横になり、まだ暗い窓にカーテンを引いて、休息のための眠りに就いた。


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