刻の魔女


城壁の奥の渇れた街
灰色の砂埃舞う
錆びた竜哭く門くぐり
城へと足を踏み入れた

回廊を埋める陽の光
揺るがすものは何もなく
兵士の手から鍵を取り
銀色の扉を開けた

刻の止まった城で
彼女は今も眠る
かつて僕の世界を
象っていた少女

おやすみ 刻の魔女
花の天蓋をあげる
君の眠りに寄り添う永久が
少しでも安らぎますように
さよなら 刻の魔女
僕の愛した少女
抱いた剣に魔法をかける
もう君が目覚めないように

災厄とはなんだったろう
灰色の砂埃散る
鏡台に見る僕の顔
時間は絶えず流れゆく

何者も生きてはおらず
何者も死んではいない
眠りに落ちた城の中
踵を鳴らし 空を見た

刻が戻せるのなら
どこまで還るだろう
魔女と呼ばれた王女
彼女が生まれる前か

愛しい 刻の魔女
僕が君を忘れたら
後に残るのは脱け殻だと
例え話も今はできない
おやすみ 刻の魔女
すべて夢の話だよ
閉じた門に魔法をかける
もう君を覚まさないように

翡翠色の目の中で
揺らぐ 春を見ていた
差し伸べられた白い手の
翼のような 軽やかさ
もう一度触れたなら
何を言っただろう
「君がこの街に災厄ならば」
「僕が どこか遠くへ」

おやすみ 刻の魔女
すべて夢の話だよ
この想いに魔法をかける
いつかまた巡るときまで

おやすみ 刻の魔女
花の天蓋をあげる
君の眠りに寄り添う永久が
少しでも安らぎますように
さよなら 刻の魔女
僕の愛した少女
抱いた剣に魔法をかける
もう君が目覚めないように


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