第一章


「……ふうん」
 エレンの去っていった方向を目で追って、レトーは合点がいったように手元の本へと視線を戻した。だが、それからふとまた顔を上げ、しばし見えなくなった背中を思い出す。そしてやがて音もなく本を閉じ、図書館を後にした。
 彼のいなくなったことにも気づくことはなく、エレンは目的の分厚い背表紙を見つけて躊躇いなく広げる。昨日の放課後に挟んだ栞はそのままだ。最初に見つけたとき埃を被っていたこの本は、それから今も自分以外に読む者がいないらしい。借りていけるものなら二晩あればと思うのだが、残念ながら禁書の類は持ち出し禁止だ。そして、図書館の中でも読むことが許されているのは教授と、学力上位の生徒数名だけ。
「―――」
できるだけ多くの文章を記憶に刻みながら、一言一句漏らさぬように読んでいく。この国に一冊しかないとされる禁書“レヴァス”が、所蔵されている図書館。私がここへ入学した目的は、元よりそれだけなのだから。


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