第八章


 結局ろくに目を合わせないまま教室を出て行った後ろ姿を見送って、それからふと、ノートを書き続けている友人に視線を移した。
「……あのさ」
「ん?何?」
「魔法学の、レトー先生のフルネームって知ってる?」
「レトー……あ、あの若い先生ね。名前?……そういえば、何だろう」
あの日のことを思い出すとき、ダリアン教授のことと放課後のことの他に、もうひとつ思い出さずにはいられないこと。それは、彼の呼ばれていたフルネームだ。否定をしていなかったところを見ると、名前も、そして役職も事実なのだろう。私は図書館で彼と関わりを持つまで、魔法学にはほとんど興味がなかった。そのため、もしかしたら単に自分が聞き逃したか何かして知らないだけなのではないかと、少し考えていたのだ。だが、話を振ってみた友人もまた、首を傾げた。
「言われてみれば、知らないかも。ダリアン教授なんかは、入学式のときに自己紹介で聞いたけれど」
「ダリアン・メルボリックだっけ」
「そうそう。あれ絶対みんな、心の中でダリアン・メタボリックって思ったよね!」
「まあちょっとだけ、ね」
「やっぱり。まあ、おかげで一番に覚えたけど」
悪戯っぽい顔で笑って、彼女は落ちてきた髪を耳へ引っかけ、またペンを走らせた。確かにそう思わずにいられなかったと、笑い話に少しだけ、ダリアン教授に抱いていた嫌悪感のようなものが晴れる。たっぷりと出てしまったインクを祟りだと言って吹き乾かし、彼女はまた少し真面目な顔をして続けた。


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