第七章


顔を見てもいないのにその表情が想像できるのは、それだけ私が彼に慣れたということか。この一ヶ月、誰よりも長い時間を過ごしてきた。だらりと力の入らない指先の代わりにきつく唇を噛んで、その終わりを言い出したのは私なのだから、最後まで言わなくてはと熱い喉から声を絞る。
「私には、もう何もありません」
はっきりと口にした瞬間、胸の奥で何かが決壊した。だめだ、このままここにいてはまともに話もできなくなる。そう察して踵を返し、足早にドアへ向かおうとした。その前に、腕が差し出されて立ち止まらざるを得なくなる。
「本当に?」
「……はい」
「それなら、どうして逃げる必要があるのです。本当にただ一日でも早くここを辞めたいというのなら、僕の話を無視して、解読を進めればいい」
「……」
「もっと言えば、僕に上手く手伝わせてさっさと終わらせてしまえばいい。一人でやるよりも、絶対的に時間はかからないと分かっているはずです。……エレンさん」
継ぎ接ぎの縫い糸を正確に捉えた言葉に、何も返すことができなかった。俯いて、焦りからぐるぐると混ざっていく思考を必死で立て直す。ここで私が混乱してしまったら、付け焼刃とは言えせっかく繕った嘘が台無しだ。冷静でいなくてはと、無意識に両腕で自分の肘を抱く。だが。


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