第五章


「魔法学は、魔法とは何物かという零の疑問から始まって、無限の謎で終わる学問だと思っています。それでこそ魔法そのものであり、謎だからこそ研究者はそれを研究するし、生徒はそれぞれに気になる部分を見つけて深く学ぶものを選ぶことができる」
「……」
「僕は魔法の勉強が好きなのではなく、結局のところ不思議で複雑で、それでいて面白い魔法そのものが好きなのでしょうね。だから一人でも多くの学生と、いつまでも魔法とは何なのかと、そんな問答を楽しめる。これほど受け持って楽しい授業もありませんよ」
魔法が、好き。躊躇いもなくそう語る声に、ノートの上でインクが小さな染みを残した。穴が開いてしまう。一旦離して、再び訳の続きを書く。
「……どうして」
「?」
「どうして、魔法が好きなんですか」
さながら独り言のように呟いた言葉は、それでも今こうして並んで座っている限り、独り言である可能性などなく。
「それは、魔法のようだからですよ」
律儀に返された答えがどこか冗談めいているのか真剣なものなのか、どちらとも取れるようなものだったことに、何だかとても力が抜けた。
 いつの間にか聞こえなくなっていた雨の音が、再び聞こえ出す。ひとまず休憩にして昼食を取りたいと言ったら、同じことを考えていましたと言われたから、本を閉じてペンを転がした。


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