第五章


「これが魔法の手順で……ああ、ここは古代テガロの言葉ですね。現代に近いものでいうと、蓋を意味します」
「蓋……」
「それからこれは、鍵。つまり厳重に塞ぐ、というような意味の呪文ですね」
ちらりと、横顔を見上げた。見慣れない古代文字を、ノートの端に書き出してくれている彼は気づかない。そのままペンの先へ視線を戻し、ふと、思っていたことをこぼしてみる。
「……レトー先生って、魔法学の教授ですよね」
「はい?ええ、そうですが」
「どうして、ここまで専門的な言語や暗号を扱えるんですか?」
口にしてみれば、疑問は一層はっきりとした形になった。初めて協力を申し出られたときから、薄々気になっていたのだ。魔法学は、専門知識を必要とするようなものではない。こう言ってしまうと言葉がきついが、入門にも満たないような学問だ。難解な法則や魔法具について講義するのではなく、自由な発想で意見を交し合うことだけを目的としている。講義は卒業まで四年間続くが授業の回数は全教科で最も少なく、まるで息抜きのような科目。そんな講義の教授が、よりによって上級生でも多くは取りたがらないような専門科目の、そのまた細かい史料の中でしか見かけないようなものを辞書も持たずに読み解いていく。不思議な光景だ。
「ああ、それは……僕、学生時代は魔法術史を専攻していましたので」
「それだけですか?」
「ええ。まあ、授業とはあまり関係ありませんでしたが、興味があって古代魔法史にも手を出していました」
「……」
「他にも、占星術や地学、錬金や呪学、魔法薬学。あとはそれこそ禁書も読んでいましたよ。“レヴァス”ではないですが……暗号を扱うようになったのもそのときですね」
色々やっていました、と。簡単に答えられて、唖然としてしまった。セグラノードの教師は、基本的にここの卒業生だ。自分自身が学生だからこそ分かる。この学院でそれだけたくさんのことを幅広く学ぼうとするのは、何と言うか非常に。


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