第二章


指差せば、その先を目で追って彼はああと納得したように声を上げた。そうして厚い書物に指をかけ、きっちりと詰まった棚から引き抜く。声をかけられたとき、彼が手にしていた本だ。あれば使いたいと思っていたのだが、ちょうどその手に収まっていたので口には出さなかった。戻していいものならば、貸してもらいたい。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
今さら何を隠す必要もないので、古代暗号と書かれたそれを堂々と申し出て受け取る。ぱらりと数頁捲ってみれば、やはり使えそうだ。ただ、古代暗号について記したその言葉自体がすでに古く、少しややこしい。この本を使うために、もう一冊辞書を引く必要がありそうだが仕方ないだろう。そう思って手近な棚で辞書を探し始めると、しばしぼんやりとこちらを見ていた彼が、ぽつりと言った。
「……僕が読みましょうか?暗号」
「……はい?」
聞き間違いではないかと一瞬の間を置いてから出た言葉は、何とも失礼なほどに惚けた声だった。え、と聞き返すこともままならずに視線だけを上げれば、彼は至極真面目な顔をしてこちらへやってくる。
「一冊で読み進められそうにないのでしょう?よろしければ手伝いますよ」
「え……」
「時間をだいぶ取らせてしまいましたし。その分、短縮に協力を申し出ているのですが」
だめですか、と。どうやら耳の間違いではなかったらしい。さらりと訊かれて咄嗟に疑問も歓迎も拒絶も出ず、え、だのあ、だの散り散りな言葉が数回落ちた。それから落ち着いて考えて、そっと首を振る。


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