第二章


足を、止めざるを得なかった。隠していなかった、というわりには緊張している自分に気づいて、余計に強ばってしまう。振り返れば、彼は手にしていた本を閉じて元の場所へ戻した。そしてようやくこちらに重なった瞳の、その印象と不釣り合いな赤をぼうっと見つめる。
「エレン・カトレアさん。西方の街で生まれてすぐに、魔女の養子になって北の森で育った。養子に出された理由までは記入されていなかったので分かりませんが、文面から察するに」
「……」
「……恐らく、素質が高すぎて一般家庭で育てるには無理があった。違いますか?」
表情が、読みにくい人だ。朗らかなだけの、この学院にしては年若い教授だと思っていたが。読み解こうとするような視線と口調に、指先ひとつ動かすことさえどことなく躊躇してしまった。思い切りのいい聞き方をしてくれる。なぜ、と問われたことはあったが、憶測でここまではっきりと話されたのは初めてだ。かすかな苛立ちが、もやのように喉元を過ぎる。まあ、もっとも。
「……お察しの通りらしいですよ」
「らしい?」
「自分の記憶にもないような幼い頃の話ですので。十歳を迎えたときに私を育てた先生から聞いた話ですから、すべて事実なのかは自信がありません」
「ああ……、すみません。それもそうですね」


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