たとえば髪が明るい茶色に染まっていて、タバコの香りを漂わせた制服を着て、しかもそれをだらしなく着こなしている少年がいるとする。

すると、周りはそいつのことを「不良少年」と見なす。あの少年は非行に走った野蛮な奴で、きっと頭も悪いに違いない。みたいな。

まあ、別にそのイメージは間違っちゃいないんだ。明るい茶髪で、だらしなく制服を着ていて、そんな俺はたしかに頭が悪い。おまけに喧嘩だってする。口も悪いし、教師なんか糞くらえとばかりな態度で学校に通っている。

でも、世の中見た目のイメージばかりで人を評価してはいけないと思う。


たとえば、だ。


一度も染めたことのなさそうな黒髪で、しっかりと制服を着こなした涼しい顔立ちの少年がいるとする。

周りはそいつを「優等生」に違いないと思うだろう。それで、「優等生」なら性格も品行方正で素晴らしいに違いないと考えるわけだ。だが俺はそこに待ったをかけたい。

だって、その認識は大きな間違いだ。



「優等生」が品行方正?

んなわけねーよ!




「いちいちなんなんだよ! まじ最悪なんだけど! お前変態だろ!」

「失礼な。お前が腰パンをやめて、しっかり制服を着ればいい話だ」

「そういう問題じゃねーだろ! 服装の注意なら口頭だけで十分なんだよ!」


校門付近。そこで朝っぱらから俺は大声をあげていた。原因は、目の前でため息をつく「優等生」。


「いくら口頭で注意しても、お前、全然服装を正さないじゃないか」

「そっ…それは……」


痛いところをつかれて、目を泳がせる。「優等生」はそら見ろと言わんばかりに俺を見下ろすと、次の瞬間、ニヤリと怪しい笑みを浮かべた。


「だったら直接的な行動に出るしかない」

「うわあああああ!」


「優等生」は喋りながら、俺の履いてるスラックスをズルッと勢いよく引き下ろす。慌ててスラックスを上げてもとの位置に直すと、奴は神妙な顔で「黄緑のボクサーか」と呟いていた。

またこいつはやりやがった。最悪だ。最悪だ。最悪だ。この変態。


「確認するなよ! 気色悪いな!」


全力で嫌がると、不服そうに奴はまぶたを半分おとしてこちらを睨む。


「嫌なら服装を正せ。あきらかにパンツを見せるための着こなし方だろ。腰パンって」


本日二回目の腰パン注意。それに対し、俺は不満な気持ちを隠さずにふて腐れたようにそっぽを向く。

こいつは風紀委員で服装検査のために毎朝学校の正面玄関に立っている。それで、毎度毎度、腰パンをしている俺のスラックスを引き下ろしてパンツの色を確認するわけだ。

慣れたと言えば慣れたが、俺としてはこれは大変不本意だった。べつに、注意するだけならパンツの色なんか確認するなと言いたい。だって、そこまでくるとまじで変態だって。

そんなことをつらつらと考えていると、奴はムッと眉間にシワを寄せた。


「変態じゃない。あくまでこの行為は注意を促してるんだ」

「心を読むな! 心を!」


まさかこいつエスパーか。そう戦慄しながら、俺は鞄を強く握りしめる。

そんなふうに若干げんなりとする俺をよそに、奴は再びため息をつくと、仕方ないなというように小さく微笑む。


「……まあ、この前注意した前髪をくくってあげたのは評価する。そのほうが清潔だ。欲を言うと切ってほしかったがな」

「え、ちょ……」


前髪を上にあげたことで晒された額に、奴が触れる。

スラックスを下ろされてパンツを見られることは何度もあるが、触られるのは初めてで、わけもなく胸が高鳴る。

いや、わけならあるんだけど。

不本意ながら。


「さ、触んな!」

「なにをそんなに嫌がるんだ。別に減るもんじゃないだろ」


俺が眼前にある手の平を払いのけると、奴は不機嫌そうにこちらを睨んでくる。嫌な予感がして一歩下がれば、伸びてくる奴の腕。

……またかよ。


「何度もパンツ見ようとすんな馬鹿!」

「馬鹿じゃない。少なくともお前より頭はいい」

「そういう問題じゃねーよアホ!」


もういい!とばかりに俺は奴を追い抜いて校舎に上がり込む。後ろから「明日は正しい服装で来いよー」という呑気な催促が聞こえてきたが、返事はせずに舌打ちで応える。


ちくしょう。毎回毎回パンツばっか見やがって。


「少しくらい俺の目を見て話せっつーの。ばか…」


下駄箱から上履きを取り出して、ぽつりと零した呟きは誰にも拾われずに忙しそうな朝の空気に溶けていく。


不良の俺が、遅刻せずに毎朝きちんと登校する理由を奴はわかっているのだろうか。

わかってない気がする。いや、絶対、わかってない。断言しよう。

あの「優等生」のくせにまったく品行方正じゃない、むしろ異様にパンツに執着するような変態は、絶対、なにも、わかってない。


「うっぜぇ……」


俺は俯いて歩きだす。教室で一眠りしようと思った。


たとえば、「不良少年」と「優等生」が肩を並べているとする。他人はそれを見て、「優等生」が「不良少年」に脅されているか、逆に注意でもしているに違いないと思うだろう。


でも、しょせんそんなのイメージだ。実際は違う。


「不良少年」は「優等生」が好きで、だからわざわざ「優等生」に会いに行く。


事実なんて、それだけでしかない。


「明日は何色のパンツ履こう……」



END


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ついったでお世話になっているフォロワーさんのリクエストで「優等生×不良なパンツ話」


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