俺と和志はたしかに、失った。失ってしまった。
戻るわけなんかない。だって失ったのだ。永遠に。
俺と和志は椎那という存在を、中2のあの日、失ってしまったんだ。
誰もいない廊下を全力で走る。
走って。
走って。
走って。
やっと昇降口までたどり着いた。
息がきれている。肩が上下していた。頬は上気して、赤みがさしている。
こんなにも、俺は生きていた。
息をし、そして吐く。走り、歩き、跳び、喋り、聞き、感じ、思い、考えている。
でも、椎那は?
「椎那は…もう、戻れないんだ……」
呟いたのは俺なのに、どうして他人事みたいに聞こえるのだろう。
三日間。
椎那は蘇った。三日間、だけ。
三日間だけの『生』に椎那は昔のように「嬉しいじゃん」と言えるのだろうか。
俺にはわからない。
だって結局、俺と椎那は『親友』という名の他人だったんだ。わかるわけ、ない。
気付きたくなかったよ。こんなこと。
椎那はたしかに『親友』で、大切で。
でももういないんだ。本当は。
砂浜ですくった砂粒達のように、手からこぼれたものはその行方すらわからなくなる。消えてしまうんだ。
じゃあ、椎那も?
胸中の問いに答えてくれる人はまだいない。
だけど、
もう『三人』でいることはできないのだと、気付いた。
気付きたくなかったのに。
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