たしかに僕は正義の味方だ。

でも影が薄い。物凄く。

自覚は……残念ながらある。
















「…お前、誰?」


「ハイカングリーンです」





陰鬱とした雰囲気の漂う暗い広間。薄暗く青白い光を放つ照明が、不気味な広間の様相を照らしていた。





「…グリーン?」


「ハイカンジャーは全員で五人です」


「嘘、マジで」


「大マジです」





僕が真顔でそう言えば、目の前の人物は口をへの字に曲げた。いや、口元しか見えないからなんとも言えないんだけどね。この人、装飾多過な仮面を顔の上半分につけてるから。ほら、目だけ隠すみたいなあんなタイプの仮面。キザッタラシイよね。



「本当に…グリーンなんていたのか?」


「失礼な。最初からいましたよ」




なんだろう、この人はハイカンジャーが五人だったのが不満なのか。僕がハイカンジャーなのが嘘臭いか。


だけど事実だ。

僕はハイカングリーン。




「…確認してみたところ、事実でした。ハイカンジャーは五人。レッドとブルーとイエローとピンク、そしてグリーン」



そう言ったのは目の前の人物同様に仮面で顔の上半分を隠す男。僕達と若干距離をが離れたところでなにか資料みたいなものを捲っていた。秘書みたいな役割なのかな。



秘書らしい男の発言に、目の前の人物は唖然としたように口を開く。




「……グリーンなんて、いたのか」


「いちゃ悪いですか」




間髪いれずに文句を一言。だって、ねぇ?




仮にも敵が正義のヒーローである自分のことを知らないって、どうなのさそれ。







現在僕がいる場所。

それは、敵のアジト…っぽい所。確証がないからなんとも言えないけど。




つまり、僕は今敵に捕われて人質にされているのだ。ほら、後ろ手にバッチリ縛られてるし。冷たいんだか暖かいんだかよくわからない黒光りする床に座り込まされて、身動きがとれない。




思い返せば、いつもみたいにブラック団の怪人が出没したとの連絡が入り、赤星さんを先頭に現場に向かえばいつもの怪人がいて、その怪人の命令でいつも通りトラブリン達が襲ってきて、僕以外の人達がいつも通りそれを倒していく。



だけど今日は、ちょっとだけいつも通りじゃなかった。



いつも通り傍観を決め込んでいた僕を、トラブリン達が襲ったのだ。

油断とかそんな問題じゃないくらい気がゆるんでいた僕は、トラブリンの痛烈な…本当に痛烈な(ここ重要)手刀を首筋にくらい当然気絶。

(情けないけど)




気が付いたらここに人質として連れてこられていた。




「ま、まぁいい。とりあえず、仲間を人質にとれば、さすがのハイカンジャー達もいきなり暴れださないだろ」



気を取り直したかのようにそう言い放つ仮面の男。身なりはなかなか派手な衣装を着ているので、もしかしたらこいつがブラック団のボスなのかもしれない、と密かに思ってみたり。


だけど、そんな思考をしていたところで何になるというのか。





「…そうだといいですね」


「な…なんでそんな暗くなってんだよ」





ボスみたいな仮面男が怪訝そうに僕を見る。なんで暗くなってるかって?そんなのわかりきったことだ。





「いや…、赤星さん達、僕が攫われたって気付いてるのかなって……。てゆうか…」


十中八苦、奴らは僕を忘れていると思う。




胸中でそんな寂しいことを考えている俺は、現在敵に捕まって両手両足を縛られた状態で人質扱いだし。




……どうすんのさ、これ。

味方に忘れられてる人質って、助かるのか?





「あー…、うん。赤星だって…、仲間がいなくなればさすがに気付くと思うし…。うん。だから、あんまり落ち込まなくても……」


「へたな慰めなんていりませんよ」





そもそも、なんで敵に慰められねばならないのだ。




「す、すまん。…――はっ、なんで俺がこいつに謝ってんだよ!」





ノリツッコミか、こいつ。


どうやらこのボスっぽい仮面の男は、それなりに常識人っぽい怪人のようで有難い。

日頃話が成立しない面子に囲まれているせいか、僕の中でこの怪人の好感度が急上昇。まぁ、敵なんだけど。




「……というか、なんで貴方、赤星さんの名前、わかるんですか?僕達ハイカンジャーは、敵に名乗ったりなんてしてない……と、思うんですが」

「ぎくっ!」




いや、ぎくって口に出しちゃダメでしょ。すげー怪しいから。



ジト目で僕が目線を逸らさずに見つめ続ければ、ボスっぽい仮面の男は、仮面のくせにだらだらと冷や汗をかいているのがわかるほど動揺し始める。



「………質問に答えてくださいよ」

「うっ……」




追及すれば言葉を詰まらせる。


このリアクション、なにかあるのは確定だろう。




「――――…はぁ。………ボス、この方には説明したらどうですか?1人くらい、相手側にも協力者が必要だと思うのですが」




上司のあまりの動揺っぷりを見兼ねてか、呆れたようなため息をつき、秘書らしき人物がそう提案のような発言をする。


途端に、ちょっと思案するように間をあけた後、ブラック団のボス(秘書の発言で確定)はおずおずと衝撃的な言葉を口にした。








曰く、赤星さんが好きなので協力してほしい、と。






「は……?」


「頼む!ずっとずっと話し掛けたいのにあいつ、第一印象を決めつけたらそれを絶対自分の中で覆さないから、俺はずっとあいつの中じゃ悪の親玉なままで話の一つもできないし、せめて悪いことしなけりゃどうにかなるかと思って全然悪いことやらないでいるのに、あいつは一向に俺を悪の親玉としか思ってくれなくて………とにかく、このままじゃ俺は赤星に告白の一つもできねぇんだ!」




土下座せんばかりに地に足をつけ、床に座り込んでいる僕に縋りつく仮面の男(ボス)。






え、なにその真相。





「なぁ、頼む。もう……、どうしたらいいか、わかんねぇんだ!今回お前を人質にしたのだって、赤星と話がしたかったからなんだよ!」

「そんなこと、言われても……」

「頼む!頼れるのはもうお前だけかもしんねぇんだ!」




その時僕は、男の仮面の奥にキラリと光るなにかを階間見た気がしたり、しなかったり。



で、僕は悟ったわけで。






「……わかりましたよ。協力すればいいんでしょ」

「ホントか!?ありがとうな!!」



ため息を押し込めて肩を竦める僕に、ボスが仮面の下で恐らく破顔した。


その様子がわかってしまう自分に嫌気がさすし、呆れてしまう。


まったく、僕ってなんでこんななんだろ。








そうさ、僕はしょせんグリーン。





レッドみたいに正義感に溢れてるわけでもない。


ブルーみたいに冷徹なわけでもない。


そしてイエローみたいにカレーが好きなツンデレなわけでもない。


ましてやピンクのように女の子らしいわけがない。






敵には無視され、仲間には空気扱い。

押しに弱くて、流されやすい。




それがグリーン。僕である。








……まぁ、どうも今回はその特性が裏目に出たわけでもなさそうだけど。



僕という協力者を得てはしゃぐ敵のボスを生暖かく見守りながら、僕はなんだか変わりつつある楽しくなりそうな未来に思いを馳せる。





END

 

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