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死してなお、君を追う

「ねえねえ、敦くん」

ポッ◯ーを食べながら名前は自分のそばにいる紫原に声をかけた。しかし、彼女からはその特徴的な紫色の髪は見えていない。

「ん、なあにー、名前ちん」

彼女の頭上からやる気のない声が降ってくる。ポキポキとこちらもポ◯キーを食べていた。机の上から長い手でまたそれを掴むのが目に入って名前も負けじとそれに手を伸ばす。

「明日の物理の宿題終わったー?」

「うん、名前ちんはー?」

「私まだなの。教えて」

「いーよー。あー、後で水曜日の数学の宿題見せてー」

「ちゃんと教えてあげるから写すのはやめなさい。」

「はーい」

こんな会話をしている間に机の上の袋は空になり、紫原は椅子の下の自身の鞄に向かって手を伸ばした。

「あ、ちょっと。危ないよ。」

「ああ、ごめんごめーん。」

「もう、いつもやめてって言ってるのに」

紫原が下に手を伸ばせば、当然上体も前かがみになる訳で、そうすると名前は自然と前に押し出される。つまり彼女は紫原の膝の上に乗っているのだ。2人で秋田の高校に入って半年。中学時代どころか、幼稚園の頃から大きかった彼女の幼馴染みは、いつの頃からか彼女を膝に乗せるのが日常となっていた。まるで人形でも抱えるかのように、片手は必ず彼女のお腹に回っている。

中学に入りたてのころは名前も流石に恥ずかしいと思ったのだが、いくら言っても直らないため、諦めて3年と半年。最初は色々言っていたクラスメート達も、もはやそれが当たり前になってしまったようで最近は仲の良いもの達は2人に餌付けをしに来る始末だ。

だが、それは名前にとって少し残念でもある。もし、自分が彼女だと思ってもらえれば彼に告白する女の子は減るだろうに。一時はその噂が出回っていたが、バスケ部主将の岡村がその噂を否定してしまったことにより、彼に告白する女子はまた増加傾向にある。なんともKわ…ゲフンゲフン。

と、名前が尊敬(?)する主将の愚痴を内心呟いたとき、キャーと入り口付近で歓声が上がった。こんな歓声の中心になるのはただ一人しかいない。

「あ、いたいた。アツシー、名前ー。」

女の子たちに囲まれながら手を振るのは彼らより一つ年上の氷室。なんでも出来て、かっこよくて、きさくで、レディファーストの出来る彼は転入してから告白されっぱなしだと岡村が嘆いていた。やっぱり世の中顔だと名前は思う。

「ミーティング、視聴覚室だって。そろそろ行くぞ」

「えー」

「あ、わかりましたー。」

「えー、名前ちん行くのー」

名前の上から降ってくる声はまるで小さい子供が保育園に行くのを嫌がるようだ。

「行かないと監督怒って外周倍になっちゃうよ、敦くん」

名前がそう言うと紫原はうーん、と少し悩んでから漸く立ち上がった。外周の方が面倒だと思ったのだろう。



「あ、」

三人で歩いていた時、校庭の隅にあった白い花が名前の目に留まった。小さく白い花びらは花好きの名前の興味を引くには十分で…

「あれ、何の花なんでしょう?」

「知らなーい。」

「何だろうね、俺も初めて見るな」

紫原は元より、知識人な氷室でも知らない。アメリカにはない種類の花なのだろうか、と名前が思った時だった。

「ああ、あれはテイカカズラだよ。」

振り返ると、福井を先頭に劉、岡村がいた。因みに劉は只管岡村をからかっていて、どうやら二人は名前たちの存在に気がついていない。

「へえ、福井先輩物知りですねー。」

「いや、あの花ばあちゃん家の庭にあってな。ジャスミンみたいな匂いすんだ。」

福井は優しげな目でそれを見つめた。

「あんな可愛い見た目のくせして有毒なんだと。」

「へえ、そうなんですか。ビックリです。」

名前はもう一度それに目を向けた。
その小さな花びらに毒があるようには全く見えなくて…
やはり、花は興味深いと思った。


「あ、そろそろ行かないとヤバいですよね。行きますか。」

視聴覚室への道を、6人で歩く。
そんな中、福井は少し離れて前を歩く名前と紫原を見ていた。

たしか、テイカカズラの花言葉は依存。
彼らにぴったりな花言葉だ。
紫原は元来面倒くさがりな性格だが、恐らく名前がいなければ何もしようとしないはずだ。
それが、たとえバスケであったとしても。

福井は再び、窓の外の白い花に目をやった。
かつて藤原定家が式子内親王に恋をして、けれどその恋は叶わないまま二人とも亡くなって。結果、定家の墓から伸びた茎は式子内親王の墓を覆い、白い花を咲かせたという逸話の残る花だ。

(できれば幸せになってほしいんだけどな)

「俺もです。」

すかさず横から声がして福井はびくりと肩を震わせた。

「え、何お前エスパー?」

「先輩、声に出てましたよ」

氷室はそう言いながら、優しい目で前の2人を見つめる。

「それは俺も思うアル」

「ワシもじゃ」

いつの間にかすぐ後ろには劉と岡村がいた。恐らく劉が岡村をいじるのに飽きたのだろう。岡村は岡村で立ち直りが早い。


「まあ、今は見守っておくのが一番ですよ」

氷室の言葉に、全員で顔を見合わせて笑った。そして、二人の後を追うのだった。



死してなお、君を追う


彼はきっとそうするはずだ。
いや、それ以前に彼女を腕の中から放すつもりなど彼にはないのかもしれない。





こちらの作品はリクエストいただいたビオラ様のみお持ち帰り可です。
この場をお借りしてビオラ様へお手紙です。



ビオラ様

大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。また遅くなってしまったにも関わらず、温かい目で見守って下さり、本当にありがとうございました。互いに依存気味ということでしたのですが、紫原くんもちゃんと依存してるつもりです。
ヒロインちゃんの真面目なところがイマイチでなかった気がします。詳細なリクエストいただいたにも関わらず、所々分かりにくい箇所、表現しきれなかった設定等々あります。本当に申し訳ございません。

本当にリクエストをありがとうございました。今後もこんな管理人でよろしければ仲良くしてください。この度は遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。そして、リクエストを本当にありがとうございました!

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