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好物はアナタ

「名前ちんはやくー」

「わわ、ちょっと待って敦くん」

今日は珍しく練習のない日曜日。

今私は大量のクッキーとお菓子大好き敦くんと共に男子寮の一室へ向かっている。

普段なら手を繋いでゆっくり歩いてくれる敦くんだけど、今日はちょっと違う。

「早く早くー」

私より何倍も重い荷物を持っているのに、その足取りは凄く軽やか。

今日は彼の為に彼の部屋でチーズケーキを作る約束をしていて、何週間も前から敦くんは楽しみにしていたのだ。

スキップでもし始めそうなその姿はまるで大きな子供。

すごくミスマッチだけど、すごく可愛いし、好きだ。

「待って、待ってよ敦くん。」

クッキーを抱えて駆け寄ろうとすると「名前?」と後ろから声をかけられた。

「あ、氷室先輩」

振り向いた先には氷室先輩と劉先輩。

「その荷物何アルか?」

「あ、敦くんのお部屋で一緒にお菓子作る約束していて、それでこれから…」

「もー名前ちんってばー」

そう言って近づいてくる敦くんは持っている荷物を置いて「早くしないと名前ちんごと持ってくよー」と、だいぶお急ぎのご様子。

「そっか、引き止めてごめんね」

肩をすくめる氷室先輩と

「できたらくれアル」

と目の輝いている劉先輩。

「了解しました」

「えーだめー」

不服そうな敦くん。

「ダメだよ敦くん、一人でこんなに食べちゃ。私が監督に怒られちゃう」

むー、むくれる敦くんだけど、監督が怒ると怖いのは知っているからか「ちょっとだけだからね」と唇を尖らせた。

それを見た氷室先輩は微笑んで「ありがとう」と言った。

あ、氷室先輩、敦くんのお兄ちゃんみたいだ。

「じゃあ、失礼します。」

「またね室ちーん」

そう言って敦くんは私を抱え上げようとしたから丁重に遠慮して、小走りで敦くんを追った。


それから材料を全部敦くんの部屋の冷蔵庫に入れて、まずは簡単なチーズケーキから。

「細かくなるまでこうやってビスケットを砕くんだよ。でも気をつけないと袋が破れちゃうからね」

「はーい」

私の真似がしたかったのか、彼は今髪を私と同じように低い位置で結んで、三角巾を頭にし、紫のエプロンをしている。

ミスマッチだけど、やっぱり可愛いし、かっこいい。

因みにエプロンは私が以前作ってあげたものだからちょっと嬉しい。

「それにしても、どうしたの?敦くん、今までは作ってーって言ってたのに」

私も彼の隣でビスケットを砕きながら聞く。

すると、敦くんは「んーとねー」と間伸びした返事をしてから

「名前ちんもお菓子好きでしょ?だから、俺がお菓子作れるようになったらちゃんと、笑ってくれるかなって」

ビスケットの入った袋を一旦机に置いて、大きな彼の手が私の頭を撫でる。

「中2ぐらいまではさー、名前ちん、試合に勝てば笑ってくれたのにさあ。あ、でも最近少し前みたいになってきたよね」

見上げた彼はにこっと笑う。

中学時代から変わらない笑顔。

だけど、彼の周りはいろいろ変わった。

そんな中でも、私はやっぱり敦くんが好きで敦くんは隣に私がいる事を嬉しいと、私の笑顔が見たいと言ってくれるから。

「敦くんっ」

好きだよって言って、ギュッと抱きしめると、俺も、と大きなその手が再び私の頭を撫でた。


それから、無事チーズケーキも仕上がって後片付けをして「いただきます」と二人で声を揃える。

口に運んだレアチーズケーキをゆっくり咀嚼して

「おいしい」

そう言って敦くんを見ると

「でもね、名前ちんはもっとおいしいと思うんだー」

ってにこにこ顏。

「そうなの?」

「うん」

嬉しそうに頷く敦くん。

それがちょっと恥ずかしくて、どんなお菓子よりも病みつきになるその笑顔にドキドキして。

ああ、お菓子も好きだけど、お菓子よりも




好物はアナタのその笑顔。



結局レアチーズケーキは殆ど敦くんのお腹に収まってしまって、その上私も美味しく食べられてしまった。

翌日、部活用に作っていたクッキーを持って行くと氷室先輩が微笑んで
「名前、もう一つボタン閉めた方がいいかもね」と言うからトイレで確認したらハッキリと敦くんの歯型が残っていた。

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