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キスしてしまいたかった

「しーんちゃん」

休み時間、高尾が自身の相棒様のところへ行くといつもなら冷たい言葉の一つでも飛んで来るのに、今日はそれがない。

頬杖をついて、ぼーっとしている。

そんな彼らしくない姿に首をかしげながら、

「しーんちゃん」

と、もう一度声をかけてみても反応はない。

そんな彼がいつまでこのままなのか、見ていたいきもするが、今日は暇つぶしではなくちゃんとした用事がある。

それを伝えなければ後で彼にシメられることはわかり切っていたので、高尾はいつもなら届くはずのないところにあるその頬をちょんちょんとつつく。

すると、一瞬びっくりした顔をしてから

「いきなりなんなのだよ」

といつもの調子で言葉が返ってきた。

だが、一瞬のビックリした顔がツボにハマったのか、高尾はゲラゲラ笑い転げている。

「ははっ、し、真ちゃんさいこーっ、ぶくくっ」

「人の顔を見て笑うとかなんなのだよ。さっさと用件を言え」

「ちょ、ちょ、まって、ははっ」

とこんな調子で高尾は緑間が本日のラッキーアイテムであるハサミを振り上げるまで笑い転げた。

「はーあ、そーそー、今日の練習早上がりだって。監督が出張らしいから」

「そうか」

「で、何考えてたの?」

その言葉に緑間の顔はかあっと赤くなる。

「う、うるさいのだよっ」

そう言って緑間は教室を出て行ってしまった。

予想外のその様子に一瞬ぽかんとした高尾だが、それもツボにハマったようで再び爆笑し始めた。


一方の緑間は校舎内を早足で進み、目的地の自動販売機に辿り着いた。

そこでつめたーいと書かれたお汁粉のボタンを押そうとした時だった。

「しーんちゃん」

さっきの高尾の声より高く細い声が耳に届く。

振り返った拍子に隣にあった某ブドウジュースのボタンに手が触れてしまう。

「もう、慌てすぎだよ」

クスクス笑う彼女はぴっちりと黒いスーツを着こなして、長い黒髪を一つに括っている。

普段の子ども顔負けの愛らしさではなく、そこに居るのは大人の女性だった。

「苗字先生」

「もー、いーじゃん、誰もいないんだから」

ぷぅと頬を膨らませると、いつもの子供らしさが顔を覗かせる。

「誰か来たら面倒です」

「そんなケチケチしないでよ」

彼女は緑間の家の近所に住む苗字名前。

緑間の小学生からの想い人で、つい先日付き合うことになったばかりだ。

今は大学三年生で、今日から教育実習に来ている。

ただ、彼氏である緑間はそんなこと一言も聞いていなかったため、先程のような状態に陥っていたのだ。

「本当、お汁粉好きだよね」

彼女は緑間の隣に並ぶと、自身も緑間と同じようにお金を入れてつめたーいと書かれたお汁粉のボタンを押す。

そして、にこっと笑ってはい、と緑間の手に握らせた。

その笑顔は心なしかいつもより輝いていて、再び緑間の顔は真っ赤に染まる。

「かーあいっ」

いたずらっぽく笑ってブドウジュースを持ってかけて行く彼女。

その姿が不意に秀徳の女子制服を着た高校時代の頃の彼女に見えて…

思わず手を伸ばしそうになるのをグッと堪えた。

いつもは手を繋いで歩いたり、誰もいない公園でキスをしたりしていたけれど、今日からしばらく彼女に触れるのはお預けか…

緑間はため息をついた。

この三週間は教育実習生と生徒。

バレてはいけない関係なのだ。

そして彼女が去ったのと反対方向にある自身の教室に向かって歩き出す。

「緑間くん!!」

大好きな高い声が響いた。

「次の授業でねっ」

そう言って軽く手を降る彼女に…



キス、してしまいたかった




あと三週間も持つのだろうか…

緑間は頭に手を当ててため息をついた。

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