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RPGパロディ

剣が骨を砕く音が辺りに響き渡った。
血だらけになったそれは最早原型をとどめていない。すうっと、それが淡い光に包まれてなんとか人だと分かる形に戻る。

「ご苦労だった」

かけられた言葉に反応すらできなかった。こんな異常事態が起こるようになったのは、報告されるようになったのはいつからだっただろう?少なくとも、物心ついた時にはまだこんな事例はなかった。
それこそ、王家に生まれた宿命として沢山の人から命を狙われたけれど、こんなことはなかったように思う。

「帰りましょう。仕事は終わったわ。」

最後に息絶えたそれを一瞥して、踵を返した。

私は薄桜国に生まれた第1王女だった。この薄桜国の王家には代々不思議な血が流れている。傷が一瞬で治り力を解放すれば一人で千の軍隊を壊滅させることのできる、天から授かった力。この国では代々の風習として王家の中でその力が一番強い子孫が跡を継ぐ。そして隣接する薩摩国と萩国、海を挟んだ八瀬国から自分の伴侶を貰う事が習慣となっていた。彼らの国の王家もまた、特殊な血を持っていたからだ。
だが、この話は私には全く関係のないものであった。なぜなら、私は本妻腹の子ではないからである。つまり、妾の子。それなのに、父の血を多く受け継いだ私にはかなり血が濃かった。だから本妻や彼女の取り巻きには相当疎まれた。よって母は私が8歳になった時殺された。そして、その年。本妻は可愛らしい双子を産んだ。千鶴と薫という名前らしい。同時に生まれた2人だっが、千鶴の方が少々鬼の力が強かったらしい。今では第1王女は千鶴となり、薫はそんな妹を溺愛しているようだ。

そうして私は彼女たち王家を守る騎士団に入隊した。本来なら殺される筈であったが、父王が不憫に思ったのだろう。予てから私が武術を学ばされていたのは父王の指示だったそうだ。

王家の騎士団。
薄桜国の王家、雪村家に忠誠を誓い、いざとなったら我が身を盾にして王家を護るのが私たちの使命だ。ここにきて、もう8年。気がつけば手に剣ダコのある女らしくない女に成長していた。
近々千鶴様は正式に王位を継ぐそうだ。(姉妹ではあるがもう正式な後継者ゆえ様を付けて呼ぶことにする。)
王家を恨みに思ったことはなかった。
母を殺されて、憎いと思わなかったと言えば嘘になるが復讐したところで憎しみが憎しみを生むだけ。早々復讐は諦めた。


そうして、騎士団の中の最高部隊、新選組の幹部になって今年で1年。
今隣にいるのはその新選組副長の土方歳三。
彼は10歳で騎士団に入った私の面倒をよく見てくれていて、私は密かな恋心を抱いている。
国でも指折りの剣の使い手である彼は仕事の鬼で、局長がわざわざ補佐役をつけた。それが私を含めた7人で、今は王都の見回り中である。


「副長、先程の一件以外は異常なしです。」

「こっちもだ。」

「こちらも異常はありませんでした。」

合流地点で待っていたのは赤っぽい髪の原田さんと、副長助勤のなかで一番真面目な斎藤さん。今日は私たちが見回りの担当だった。

「そうか。じゃあ、引き上げるぞ」

彼の綺麗な黒髪が夜空に舞った。

「すっかり物騒な街になっちまったな。」

「全くだ。変若水の出どころさえ掴めればいいんだが…」

変若水とは、人をモンスターに変えてしまう薬。飲めば私達王家と同じ力を得られる代わりに理性を失い、人を食い殺しその血を啜る化け物となる。私達騎士団は現在その出処を追っていた。その薬が王都に出回ったせいで、毎夜毎夜私達騎士団が見回りを行っている。少しでも犠牲者を減らすためだ。

だが、ボチボチ騎士団でもその薬に手を出し始めている者が出ているようで、近藤局長が頭を悩ませていた。


「副長!!一大事です!!」

駆け寄って来たのは島田くんだった。新選組の諜報部隊である彼は肩で大きく息をしていた。何処かの国諜報員でも捕まったか、なんてぼんやり考えていた私は次の一言に唖然とした。

「薬の出処が押さえられました!!」


目眩がした。

「おお島田!!すげえじゃねえか!!」

「でかした、島田。」

「して、出処は?」

三者三様の反応を見せるが、本人の島田は顔を青くしていた。

「雪村…王家、です。」

とうとう我が国の最高秘密に彼らは触れてしまったのだ。流石、天下一と謳われた新選組諜報部隊だ。だが、マズイことに代わりはない。
私は己の鞄の中を慌てて探った。
その中には最近薩摩国で開発された最新式の連絡手段、携帯電話なるものと、目的のそれが入っていた。

「こちら第4部隊隊長苗字名前。第1部隊隊長、沖田総司、応答せよ」

付き合いの長い彼は、例え眠っていようがどこかで斬り合っていようが私の連絡に気がついてくれる。

「なーに、名前?」

すぐ腑抜けた声が返ってきたが、その声は何処か鋭い。流石、我が新選組最高の部隊だ。

「いつもの合流地点に集合。すぐに。」

「えー、了解」

その応答を確認して電話を切る。

「おい、名前何故ここに総司を呼び出す?」

斎藤さんが訝しげに私に声をかけた。

「決まっているでしょう?」

その言葉と共に刀を抜いた。
間一髪で斎藤さんが避ける。

「彼を殺すためですよ」

口角を上げた。
分かっている。間違っていることくらい…

それでも…

「名前…」

絶句する貴方の顔。
そんなの見たくなかった。
それでも私は、王家の人間。王家の血筋の者。血縁者の不義は、私の不義。

貴方はきっと躊躇って私を殺せない。
だがら、総司を呼んだの。

叶わない初恋より、国を取ったのよ。




「私が変若水を売り捌いていた黒幕よ。」


薫の言葉が頭をよぎった。
公の場では幼い頃から年に数度しか会えなかった少女。それでも、義母がなんと言おうと何度も抜け出して私のところへ来ては、私に微笑みかけてくれた少女。姉様、姉様と笑ってくれた少女。変若水が彼女を守ってくれるなら…
彼女が何も知らず、笑ってくれるのなら…
私はどんな罪でも悪でもかぶってやる。


だけど、ああ…

そんな辛そうな顔で私を見ないで。
裏切られたような目で私を見ないで。
分かっていた、幸せになれないことくらい。


それでも、それでも…




























平和が欲しかっただけ


皆幸せに笑っていて欲しかった。

隊士たちに動けない程度の致命傷を負わせて行くけれど、やはり幹部3人を相手にするのはしんどい。いくら治癒能力や戦闘能力を全開にしても、そろそろ限界が来たようだ。

ねえ、そんなに辛そうな顔しないで。
そんな顔されたら、もっと憎まれなきゃいけないじゃない。

「見るがいい!!この薬の素晴らしき力!!」

鞄から出した赤い液体の小瓶。
その蓋を、歯で噛んで開けた。


誰かが私の名前を叫んだ気がした。







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企画「消しゴム」第三弾「RPG」へ提出






















平和が欲しかっただけ