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あの子に少し会わない間自分は組織にスパイとして入り、コードネームを貰うまでになっていた。そして今日は一緒に組んでいるスコッチとバーボンと情報収集の任務をしていた。

といっても、ただビルの上で仕掛けた機器で盗聴しているだけだが。

聞こえてくるのは男三人の話し声。はっきり言えば一人でできる任務だ。こんな阿保共に3人で盗聴する必要はない気がする。


「つまらなそうだな、ライ」
「…つまらないからな」
「まー確かにつまらないな」
「2人ともうるさいですよ。…ほら、新しい仲間が来たようですよ」


バーボンにそう言われ、耳を澄ませると足音が聞こえた。…軽い足取りだ。


<…あ?誰だお前>
<えっと、ボスの支配人です>
<あー、確かにこの時間に言われてたな…で?なんだって?>
<昼食を届けに>



「……」


機械のノイズに混じって聞こえるのは、女の子の声だった。思い違い、聞き間違いであってほしい。

この声を聞いて、思い出すのは、最近会わなくなったあの少女。

混乱している間に、粗食音が聞こえてくる。そして暫くすれば、寝息が聞こえてきた。…やられた。思わず顔を手で覆った。



「…なんだ?急に寝始めて…」
「僕が様子を見に行ってきます」
「まて、俺が行く」


スッと即座に立ち上がればバーボンに睨まれ、スコッチに驚かれた。


「貴方は接近戦派じゃないでしょう」
「そうでもないぞ」
「ライ、どうしたんだ?」


<___人間は3という数字に安心してしまう生き物…って、ご存知で?>


「…!?」



耳元のイヤホンからキィィン…と音が発せられた。仕掛けた盗聴器が壊された。するとバーボンがイヤホンを外して内部に繋がる階段へ走って行った。


「ッバーボン!」


手を伸ばしたが彼は素早く走って行ってしまった。それを追いかけて、後ろからはスコッチも走ってきているようだった。



走った先に、バーボンの止まっている背中を見つけた。後ろからスコッチも着いたようだ。
そしてバーボンの背中越しに居たのは、折り畳んである紙を持って優雅に椅子に座っている少女。目が合うと、いっそう大きな瞳になった。


「あれ?あ、」
「待て言うな。…俺はライだ」


危なかった。名前を言いかけたしゃーろっくの口を慌ててバーボンの横を走って手で塞いだ。そしてしゃーろっくにしか聞こえない声で今の名前を教えた。


「…知り合いか?」
「……」


誤魔化したくてもこれは誤魔化せないだろう。だがこの子を巻き込んでしまいたくはない。もう、遅いが。
しゃーろっくの口から手を離した。


「今集中してたのに!」
「それは悪かった」
「ライ聞いてるか?この子は?さっきはボスの支配人とか…」
「あんなの嘘だよ。こんにちは、お兄さん方」


しゃーろっくは笑ってみせたが、隅によけてある男三人を横目に顔を強張らせた。


「…君は何者なんです?」
「しゃーろっく。最近ちょっと体も動かした推理をしたくて」
「ライ、この子とどういった関係なんですか?」
「…少し前の任務先で顔見知りになっただけだ」
「へぇ…?」


バーボンに睨まれる。スコッチは少女に興味深そうに視線を送っていた。そして当事者であるはずの少女は知らん顔で手に持っていた折り畳んである紙を鼻に近づけていた。


「…いろんな食べ物の匂い。キッチンの壁に貼っていたのかな。古い本の匂いと、しっかりついた折り目…ぎゅうぎゅうの本棚の本に挟んで隠してた…つまり見られたくない人と住んでいた……ふぅん…」


どうやら真剣に推理をし始めてしまった。スコッチとバーボンはそれに興味深々のようだ。


「…お嬢ちゃん、今日はもう帰ってくれないか?」
「なに?やましい事してるの?何でそんなに急かして隠そうとするの?ねぇライさんなんで?」
「……」
「バーボン、見てみろよ。ライの顔おもしろいぞ」
「ええそうですね。女の子にいい負けてるライをみるのは面白いですね」


野外がうるさい。この組織の2人にしゃーろっくの存在を見られてしまったのは内心焦っている。流石にこれ以上この子のことを知られる訳にはいかず、無理やり帰らせた。


「次会ったら覚えててよ」
「…それは此方の台詞だ。俺の苦労をぶち壊さないでくれ」







好きだからこそ隠すのだ
mae ato


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