どうして僕が、この森に魔法使いがいるって事を知ってるのかは秘密。話してもきっと、大人は鼻で笑うんだ。ふふん、ってね。パパみたいに、「全てお見通しなんだよ」みたいな顔をして。だから、教えない。


真っ暗な森の中。落ち葉はカサカサ言うどころかやけに湿っていて、柔らかい朽葉の絨毯は僕の足を飲み込みそうだったんだ。うっかり飲み込まれないように、木に手を置きながら奥に奥に進んでいく。梟がホーホー鳴いて正直怖かった。

「……見つけた」

そこには本当に家があった。木でできていて僕の家よりうんと小さい。灯りが洩れているから誰かいるに違いないと思った。ゆっくり近付いて窓から覗くと、女の子が見える。この家には「魔法使い」が住んでいるはずだ。ランプの炎が部屋を明るくしていて、女の子は揺り椅子に座って揺れながら歌を歌っている。ホーホーと梟は鳴いているけど、静かな夜の森の中、注意深く耳を澄ませばそれが歌だという事くらい分かった。

夜の森は寒くて、まだ秋なのに雪が降ってきそうなくらい、冷たい空気が張りつめていたんだ。僕はぶるっと身震いした。

「誰っ」

女の子が叫んだ。素早くしゃがんで隠れたけど、会いに来たのにそれはてんでおかしい事に気付いた。僕はゆっくり窓の下から顔を出していく。


「わっ」

女の子は驚いて大袈裟に仰け反って声をあげた。そのせいで僕は尻もちをつく。


「あなた!来たのね!」
女の子の甲高い声が夜の森に響いた。
「待っていたのよ!入って頂戴!」




さぁさぁと急かされ家の中へ入ると、女の子はもう揺り椅子を揺らしながら歌を歌っていた。黒い服は魔法使いらしく見えたけど、僕と同じくらいの女の子。僕はどんぐりまなこで女の子を見ていた。



「お待たせ。歌は途中で止めると駄目なのよ。わたしの事はマリーって呼んで、ジニー!」
最後まで歌い終わると、揺り椅子から飛び降りて言った。女の子は何でも知っていた!僕が会いに来ることも、僕の名前も!駆け寄ってマリーの手を掴み、ぶんぶんと振った。

「マリー、よろしく!会えて嬉しいよ!僕に魔法を教えて!」



まぁ、と今度はマリーがどんぐりまなこで僕をじっくりと見る。暖炉の火がバチバチ弾けて、部屋を暖めていた。





[*前][表紙][次#]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -