「疲れたー…」
深いため息と共にリビングに姿を現した夜天に、大気と星野が顔を見合わせて再び気怠るそうな彼を見やった。
「お帰りなさい、夜天」
「何処行ってたんだよ。」
リビングにあるソファに座っている星野は疲れて帰って来た夜天を見上げた。夜天は息を吐くとそのまま星野が座っているソファにどさっと腰を下ろした。そこにキッチンから出てきた大気が紅茶の入ったグラスを3つ持って、ガラスのテーブルにゆっくりと置いた。
「ありがと。」
「サンキュ、大気。」
テーブルに置かれたグラスを手に取り口に運んだ二人を見ながら、大気はテーブルを挟んだ星野と夜天の前にあるソファに腰を下ろした。
「今日上原 碧に会ったよ。」
空になったグラスをテーブルにおきながら夜天が言った。
「どうだった?」
星野は楽しそうに、夜天の横顔を見つめた。
それと対照的に夜天は目を閉じて肩を落とし盛大な溜め息を吐いた。
「あいつは本物のバカだよ。」
呆れた様子でため息混じりに吐き出した夜天の言葉に、星野は笑い、大気は目を丸くした。
「面白いだろ、碧!」
「どこが?ただの変な奴だよ!」
夜天は隣で笑う星野を信じられないといった様子で見ながら言った。
「さっきファージに襲われてる碧がいたから助けたんだけど、アイツ人の名前間違ってお礼言うんだよ!暖房器具と間違えるなんて最低だよ!!」
「"セーラースターヒーター"!??」
星野は笑いを堪えることもなく盛大に吹き出すと、お腹を抱えて笑い声を上げた。腹筋が引きつるほど笑う彼は涙を浮かべている。
「星野笑いすぎですよ…」
ソファを手でバシバシと叩き笑う星野に大気は呆れながら注意した。夜天は何が面白いのさ!!?と不機嫌を露にして星野を睨んだ。
「それにしても…彼女はよくファージに襲われますね…」
「!、あぁ…」
大気の言ったことに星野は笑うのを止め、腕を組んで考え込んでしまった。その横で投げやりに「間が悪いんじゃないの?」と夜天が言った。
「間が悪いだけじゃ、毎回毎回狙われないだろ。」
「星野、彼女に星の輝きは感じましたか?」
大気の言葉に星野は神妙な面持ちで首を横に振った。人は誰しも星の輝きを持っている。けれど、彼女からはそれを感じることが出来なかった。星野はそのことが腑に落ちなかったのだ。黙り込む二人を気にも止めず夜天は面倒くさそうに溜息混じりに吐き捨てた。
「輝きが小さすぎて気付かなかったんじゃないの?そんなことより、僕お腹空いちゃったよ。」
マイペースな夜天に思考していた大気が仕方ないといった様子で息を吐いた。
「この話はまた今度にしましょう。今は推測しか出来ないのですから。」
大気は考え込んでいる星野に言うと夕飯の準備をしにキッチンへと向かって行った。テレビのリモコンを手に取りチャンネルを変える夜天の隣で星野は目を閉じた。
彼の脳裏に碧の姿が浮かんで、消えた。
そういえば、と切り出した夜天の声に星野は瞼を開いた。
「アイツ、ファージ相手に国語辞典で戦ってたよ。まともな人間なら逃げるのにさ、やっぱり普通じゃないよ。」
出来上がった料理を持ちリビングへとやって来た大気の目の前には、どこか遠い目をした夜天の隣で腹筋を引きつらせた星野がいた。
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