プリズム | ナノ







思えば最近は災難続きだった。変な生物には追いかけられ、応戦してみては殺されかけ、そしたら何処からともなく飛んでくる眩しい光線が変な生物を倒してくれて、今日初めて助けてくれた人を間近で見てしまった。
何とも涼しげな恰好をしたかなりスタイルがよくかなり整った顔立ちをした綺麗なお姉さんでした。目がチカチカしたよ、あまりにも綺麗すぎて。そういえばヤテン君にどことなく似てたね。ヤテンくん女バージョンみたいな感じ、うん。でもヤテンくん男の子だし、ヒーラーはちゃんと胸あったからまさかパッド入れてるなんて無いね!!

「あー…でも本当最近変だよー……」

ベッドに寝転んでいた上体を起こした。片足を立てて膝の上に手を組んで置き、その上に顎を乗せて小さくため息を吐いた。目を伏せて伸ばした片足をぶらぶらと揺らした。

「…何か忘れてる気がする…、か。」

この前見た夢で確かに感じた記憶を一部消失しているこの独特の感覚。思い出そうにも思い出せず、もどかしくなる。何を忘れているんだろう、大切なことなのか…。一人になるといつも考えてしまう。このことを南に話したら、どうでもいいこと程忘れるのよ。と笑って言われたけど…本当にそうなのかな…。あたしの中の何かがそうじゃない、と言っている気がしてならない。う〜ん、と唸っているとノックもせずに突然お母さんがドアを開け入って来た。びっくりして肩が跳ねたあたしを気にする様子もなくお母さんはどっかのメーカーのロゴマークが入ったシンプルな紙袋をあたしに差し出した。

「な、何これ。」

「レイちゃんの所に持って行ってちょうだい。」

あたしに紙袋を押し付けたお母さんは緩くウェーブのかかったら髪をふわりと翻し、機嫌よく鼻唄なんかを歌いながら部屋から爽やかに出て行った。
嵐が去った部屋で押し付けられた紙袋の中身をそっと覗いてみると、中には綺麗にタッパに収まっているロールケーキが入っていた。きっと試しに挑戦したロールケーキが予想以上に上手く出来上がったからお裾分けしたかったんだろう。お母さんがやけに機嫌がよかった理由が安易に解ってしまった。
あたしは机の椅子に掛けてあるパーカーを手に取るとそれを長袖の上から羽織った。
変な生物と戦闘する可能性を考えて動きやすいジャージを履いて、玄関に向かった。


「行ってきまーす。」
機嫌よく鼻唄を歌うお母さんに声をかけると、はいはーい。と適当な返事を受けた。

外に出るともう辺りは薄暗く、月が闇を照らしていた。
あたしの家からレイちゃんの家(というか神社)までの距離は徒歩で4、5分という近い距離に在るため当然レイちゃんとは小さい頃から友達。所謂(いわゆる)幼なじみだ。
石段を登り、家の玄関まで行くとインターホンを鳴らした。

「………あれ?居ないのかな……。」

いつもは一回鳴らしただけでレイちゃんが笑顔でドアを開けてくれるのに…。こんなことは珍しい。もう一度鳴らしてみたけれどやっぱり何の反応もなかった。あたしは手に持った紙袋を見て悩んだ。このまま帰ればお母さんが目に見えてショボくれてしまう。だからといってこれを玄関先に置いて帰るなんて出来ない。お母さんが嬉しそうにタッパにこのロールケーキを詰めた姿を想像すると胸が痛くて仕方なかった。

「……しょうがないなぁ。」

ため息と一緒に独り言を呟きロールケーキを持って歩き出した。レイちゃんが帰ってくるまでどこか明るい場所でも行ってぶらぶらしておこう、と。
思った矢先、遠くで女の人の悲鳴が聞こえた。あたしは反射的に悲鳴が聞こえた方へ駆け出してしまっていた。