まさかこんな所でまた会うなんて思ってもみなかったの。だってスーツ着てたし(しかも赤)だからてっきり自分よりも少し歳上位かなって思ってたのよね。なーのーにー。何で廊下に居るんだろうセイヤくん。制服なんか着て。しかも何か女子群がってるしー…嫌だなぁもう。
「あ、碧ちゃん!!」
「ん?あ!うさぎ!」
左側から名前を呼ばれて顔だけそっちに向けるとうさぎと亜美ちゃんと美奈子ちゃんがいた。うさぎは元気よく走って来るとあたしにそのまま抱きついてきたからあたしもうさぎを抱き止めた。後ろで美奈子ちゃんが又呆れた顔をしてたけど気にしない。
「何かあったの?」
「へ?」
「浮かない顔してたから…」
心配そうに様子を伺ううさぎに笑って大丈夫だよ。と言い、頭を撫でると照れたような笑顔を見せたうさぎ。やっぱり可愛い子だなぁ。
ほんわかムードも束の間、お別れを告げる予礼が鳴り渡った。あたしは三人を手を降り見送って2年の自分の教室へ戻った。
「あ!おはよ碧!!ねぇ聞いた!?」
机に鞄を置いたと同時にあたしの後ろの席に座る親友、南が興奮した様子で声をかけてきた。
「おはよー、南。聞いたって何を?」
「スリーライツよ!」
「スリーライツ?何それ?」
もうっ!これだから碧は〜…。とか言って肩を落として溜め息を盛大に吐いた南に怪訝な眼差しを送ってやった。
「スリーライツって言ったら今超超超!人気の三人組のアイドルじゃない!!」
机から身を乗り出して目を輝かせながら熱く語る南。南の周りだけ何だか温度が急上昇しているのは気のせいかもしれない。
「あ〜何かいたね、そんなのも。で、どうしたの?ライヴでも行くの?」
机に鞄から取り出した教科書を詰めていってるとぐいっと後ろから南に腕を引かれた。その反動で持っていた教科書がバサバサと床に散らばって挟んでいたプリント達も一斉に顔を出してしまった。足元で2点と書いてる漢字の小テストのプリントが晒されてる。
「……〜が転校してきたのよ!!」
「うぇ?」
「だ〜か〜ら〜!!」
すぅと大きく息を吸った南。嫌な予感がしたあたしは南が言葉を吐き出す瞬間口を手で覆った。南は眉間に皺を寄せてあたしをじとり、と睨んだ。
「小さな声でお願いします。」
「仕方ないなぁ〜。じゃあもう一回だけ言うからちゃんと聞いときなさいよ?」
「あい。」
「宜しい。」
南はコホン、と咳払いをしてあたしの肩を両手で掴むと目をカッと見開いた。
南のあまりの真摯な表情にごくり…と生唾を呑み込んだ。
「スリーライツが、」
「うん。」
「転校してきたのよっ!!!!」
「………えぇーーーっ!!!」
「上原さん、静かにね。」
教卓の前に立った綺麗と噂される自慢の担任の先生の顔は笑っているものの青筋が浮かんでいた。
あたしは、苦笑いを浮かべすみませーん…。と謝り大人しく席に座った。
後ろを見るといつの間にかちゃっかり席に着いている南の姿。
「ばかだね碧。」
「先生来てたの知ってたなら言ってよ。」
「気付いてると思ってたのよ。」
「わざとのくせに、よく言うよね。」
南は文字通りいたずらが成功した子供の様な笑みを浮かべた。あたしは彼女に悪態を吐きながら教科書を机から引っ張り出した。普段からこんな調子で会話をしているけれど、仲がいいのはきっとお互いを一番理解してるからだと思う。あたしは南が大切で、南もあたしを大切に思ってくれていると信じれる。
背中を小さく叩かれて首だけ後ろへ向けると南が楽しそうに耳寄せてきた。
「後でスリーライツ見に行こうよ!」
「うん!」
しかし、スリーライツか…。
あたしは黒板に目を走らせながら想像力を働かせた。
正直名前しかしらないからボヤッとしか浮かばないけど南が猛烈なファンみたいだし…人混み嫌いだけど、仕方ないな。あたしは人知れず小さく息を吐いた。
放課後が楽しみだなーと言った南は楽しそうに国語の教科書を開きはじめていた。
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