プリズム | ナノ





バルコニーの窓の外からしとしとと雨が降る音が静かな部屋に届いている。部屋の扉に体重を預けて立つ南を、星野達三人が同じく立ち上がり見つめている。先程の喧騒が嘘のように静まり返る部屋で、南はぽつり、ぽつりと話し始めた。

かつて、太陽の皇国は銀河随一の繁栄を誇り、代々王族に宿る絶大な力で星々を邪悪なるものから護ってきた。銀河を守護する紅の王国を、誰もが崇め尊み愛していた。

「碧ーいいえ、ソールは第二皇女として生まれたの。」
「…ギャラクシアが第一皇女か。」

星野の言葉に南は静かに頷き、浅く息を吸うと再び口を開いた。

「私たちの国では第一皇女が国と銀河を治めることを役割としていたの。つまり、正式な女王ということよ。代々女王は次期女王として女の子を一人だけ産む事を決められていた。けれど、先代女王は双子を授かってしまった。」
「その言い方だと、君達の星では双子が凶兆とされていたの?」

夜天の橄欖石の瞳が鋭く南を刺す。
南は眉を寄せその視線を受け止めると、瞼を閉じ小さく頷いた。

「双子は、権力争いを引き起こす等の理由から凶兆とされている国がある事は知られていると思う。私達の国もそうだった。だから、ソールは亡き者として扱うつもりだったと聞いたわ。けれどそれを聞いた月の女王が月島の離宮で預かると言い、ソールは前女王が崩御するまで月の王国で暮らしていた。」

悲しい幼少期を送った碧の姿が脳裏に浮かび、夜天は強く拳を握った。
悲痛な表情を浮かべる三人を見渡し、南は話す事を躊躇ったが、大気から続きを促され話を続ける為口を開いた。

「ソールは10歳になった時初めて生まれた国へ戻って来た。彼女の姉である当時の女王はその頃とても穏やかで、常に民を想い、そして生き別れになった妹をとても大切にする優しい女王だった。彼女の提案によりソールは第二女王として共に国を守る事になった。戦士として強大な力を宿したソールを、城の者は勿論国民も歓迎し守護神として崇めていた。けれど、ソールの扱いに納得出来なかった一部の重臣達が銀河の安寧を保つという大義名分の元、銀河で最も強い力を持った彼女はたった一人で活発化するカオスと常に第一線で戦うという重荷を背負わされた。」

人を疑う事を知らない純粋な小さなプリンセスは、自分の大切なものを自分の力で守る事が出来るという事に喜び、その身を犠牲にしてカオスと戦っていたというー。
南の口から語られた残酷な事実に三人は言葉を失い息が詰まったような感覚に襲われた。南は辛そうに顔を歪め、唇を噛んだ。

「プリンセスを、自分達のプリンセスを守るのが君達守護戦士の役目じゃないの?どうしてソールがたった一人で戦っているのを見ているだけだったのさ?!」
「夜天落ちつけよ。」

責める夜天を制した星野は、夜天の言葉に唇を噛み苦しげに眉を歪ませる南の握りしめた拳が震えている事に気付き、何も言えなくなってしまった。

「太陽の皇国が滅んだ原因は、その一部の重臣の謀反が原因ですか?話を聞いた限りギャラクシアが星を滅ぼすなんて行動を取るとは思えないのですが。」

冷静な大気の声に、深く息を吐いた南は落ち着きを取り戻すと真っ直ぐに彼を見つめ首を左右に振った。

「いいえ。星を滅ぼしたのは間違いなく女王のー、ギャラクシアよ。」
「どうして言い切れる?」

探るような星野の瞳に、南は思い出すように言葉を紡いだ。