プリズム | ナノ



ぽつ、ぽつと降り出した雨に部屋の中で大富豪をしていた南達は手を止めて窓の外を見た。先程まで満点の星空が広がっていた夜空が灰色の重たい雲に覆われていた。不安の色を浮かべる南に、朝方には止むでしょうと大気が言う。そうね、と返答した南はしかし、どこか晴れない表情のままだった。そんな彼女の様子に星野と大気が不思議そうに顔を見合わせた時、部屋の外が騒々しくなった事に気付いた。南が窓から部屋の扉へと視線を移したと同時に、バンッ!!!と、荒々しく部屋のドアが開いた。
ポタポタと銀糸の髪から滴る雨露をそのままに肩で息をしたその人は朧げな表情(かお)でぐったりと自身の腕に抱えられた碧を見ていた。
その場にいた南は勿論、大気と星野までもが驚きのあまりに言葉がでなかった。一瞬の閑寂を破ったのは小刻みに震えながら立ち上がった南だった。南はよろよろと覚束ない足取りでヒーラーに抱き抱えられた碧に近づき、そっと冷えて冷たくなった彼女の頬に触れ、細く小さな声で名前を呼んだ。しかし碧がその目を開くことはなかった。

「あたしが…守れなか…っ」
「…あなたのせいじゃないわ。」

悔しさに形の良い眉を歪め、碧を抱きしめる力を強めたヒーラーの肩にそっと手を乗せた南は悲しみの色を浮かべる瞳に彼女を映すと困ったように小さく微笑んだ。

「この子を…守ってくれて、ありがとう…」
「……っ」
「碧をベッドへ。」

南は様子を伺っていた使用人に碧を預けると、力なく立ち竦むヒーラーの後ろ姿を一瞥すると部屋を出て行った。訪れた静寂を破ったのは、真剣な眼でヒーラーを見つめる星野だった。

「夜天…何があったんだ?」

瞳を揺らし動揺を隠せないヒーラーだったが、星野の力強い眼差しにはじめて頭がすっ、と冴え冷静になったように感じた。変身を解きヒーラーから夜天の姿に戻った彼は重い口を開き話始めた。

「ギャラクシアが、碧を狙っているんだ。…碧を、消そうとしてる。」
「ギャラクシア?!」

夜天の口から飛び出した予想だにしていなかった人物の名前に星野と大気は驚愕に目を見開いた。

「何故碧さんを…」
「わからない…。碧はギャラクシアの名前を聞いた瞬間頭を抑えて、苦しみだして……」

夜天は辛苦な表情を浮かべた。こんな表情をする夜天を見たのはプリンセスを守れなかったあの時以来だ、と二人は思った。大切な人を守れなかった悔しさを二人は誰よりもわかる。夜天の気持ちを思うと安易な励ましの言葉等何の意味も持たない事は解りきっていた。
重い静寂が訪れたその時、扉の開く音と共に神妙な面持ちをした南が部屋に入って来た。

「碧は…?」

星野の問いに南な目を伏せ首を横に振った。まるで時が止まったようにピクリとも動かない彼女の姿に、南は心臓を冷たい手で握られたような感覚を覚えた。しかしそれはここにいる三人も同じだった。南は三人を見やると、小さく息を吐き、切り出した。

「あなたたちには話さなきゃ…ね。」

南は眉を下げて悲しげに微笑った。

「私はあなたたちが他の星から来たこと、知っているわ。貴方達はギャラクシアにより星を壊された…キンモク星のセーラースターライツ。」
「な…んで」

驚愕に大きな瞳をさらに見開いた三人に、南は人差し指を唇に当て瞳を細めると三人が話すことを制した。普段の彼女とは違う重い雰囲気に圧倒された彼等を見つめたまま、再び南が口を開いた。

「…太陽の皇国のことは知っている?」
「え、えぇ…。既に滅びたけれど、その当時銀河と星を守護する絶対的な存在だった、誰もが憧れる美しい紅蓮の王国…」
「碧は、その王国の女王だった。」
「なっ……!!!」

あまりの衝撃的な事実に言葉を失った三人。信じられないとでも言いたげに目を見開き困惑する夜天と星野とは対照的に怪訝そうに眉を寄せる大気は真っ直ぐに南を見つめ口を開いた。

「待ってください。太陽の皇国には女王が二人いたと聞きましたが…もう一人は…」
「―ギャラクシアよ。」