プリズム | ナノ

どうしてこんなに気になるんだろう。僕はプリンセスを探しにこの地球(ほし)に来たはずなのに、彼女に出会ってから変なんだ。もう少し、もう少しだけこの時間が続けばいいのになんて思ってしまう。プリンセスはこんな僕の事嫌いになるだろうか。

疲れたからと部屋に戻ったはずの碧の後姿を、息抜きのために出た二階のバルコニーから見つけた時僕の体は考えるよりも早く動いていた。部屋に戻った僕が未だ大富豪で盛り上がる星野達を横目にそのまま扉に向かって足早に出て行こうとした時、星野が僕の背中に声を掛けた。

「夜天、どこ行くんだよ。」
「…散歩だよ」

自分で言っておきながら、らしくないなと思った。感のいい大気にはきっと気付かれただろう。ちら、と大気を見れば素知らぬ顔で革命を起こしていた。気恥ずかしさから、ホッとした僕は風邪ひかない内に戻れよ、と言った星野の声を背に扉を閉めた。瞬間、走り出した。
ああ、やっぱり僕らしくない、と思った。
外へと続く扉を開けてライトアップされた噴水の横をすり抜けて木々のトンネルをくぐった先に、空を見上げる碧の後姿を捉えた。夜空を見上げる彼女の姿は、そこに在るのに何故か手が届かない泡沫のように感じて、心臓が小さく跳ねた。気付いた時には僕らしくない焦りの滲んだ声音で名前を呼んでいた。かっこ悪いとも思ったけれど、振り返った碧の瞳が僕を映したことに安堵した。

「どうしたの?」

目を丸くした碧が不思議そうに尋ねた。

「碧こそ、こんな遅くにどこ行くの。」

いくら空手を習っていると言っても仮にも女子なのに、夜にウロチョロと出歩くなんて危機感がないのか。僕は内心溜息を吐いた。

「海行こうかなって。」
「海って…昼間あれだけ遊んでたくせにまた行くの?」

ていうかさっき疲れたとか言ってなかったか、と思い碧を怪訝な顔で見ればキョトンとした表情で僕を見ていた。どうやら疲れは吹き飛んでいる様子だった。

「夜天君も行く?」
「行ってあげてもいいけど」

碧は抜けてるから迷子になりそうだし、ファージに襲われても迷惑だし、なんて誰にするわけでもない言い訳がぐるぐると頭の中を巡る。本当は解ってる。僕がただ碧の近くに居たいだけなんだ。

「用があるなら無理に付き合わなくてもい、」

碧の言葉に、思わず彼女の腕を掴んでしまった。はっ、とした時には遅く、彼女の瞳は驚きで見開かれていた。僕はその瞳から逃れるように顔を逸らした。
碧が悪いんだ。気を遣ってそんなこと言うから、碧が鈍感だから僕がこんなにも振り回される。

「早く気付いてよ」

小さく小さく呟いた言葉は風が木々を揺らすざわめきに消えてしまった。眉を寄せた碧が聞き返してきたけど、癪だから教えてあげない。自分で気付きなよ、バーカ。