暖かい。何かに包まれているような…。そう例えば太陽のような暖かさ。ぽかぽかしてとても気持ちいい。このまま寝てしまいそう………寝て、しま…い?あれ何だろうこの違和感。あたし何か忘れてる気が――――…。
「…ん……?」
瞼を開けば、見慣れない天井と照明灯の明かりが目を注した。光に慣れない瞳を何度か瞬きしていると聞き慣れない声とともに男の子が伺うように顔を覗かせた。
「目、覚めた?」
「…………え?」
眼前に飛び込んできたのは黒髪で赤いスーツを着たかなり整った顔をした男の子だった。誰だっけこの人。あたしこんな美形な方と知り合いになった覚えない。記憶を頼りに思い出そうとしたけどわからない。
「…………あの、」
人懐っこい笑みを浮かべるその人に幾分か緊張が解れ、あたしは意を決して声をかけた。
「ん?」
「どちら様?」
緊張の面持ちで見つめるあたしとは対照的に、目の前の男の子は目を丸くして、きょとんとした表情をしたかと思うと次の瞬間には吹き出して笑っていた。状況についていけないあたしはただ唖然とその男の子を見るしか出来ない。
「わ、悪ぃ…っく、」
「あー…いえ良いんですよ本当。」
悪いと思ってないでしょ、君。いつまで笑ってるわけ。我慢しようとしてるんだろうけどね、あたしの顔見るたび笑い堪えるの見てると何だかわざとしてるんじゃないのとか思うのよ。だからって別に怒っちゃいないよ、怒っちゃ。
「いつまで笑ってるんですか?!」
「!あぁ、悪いな。」
罰がわるそうに苦笑いをした男の子はあたしが座っているソファに腰を下ろした。
「聞きたいことがあってさ。」
「あたしもあるよ、聞きたいこと。」
「じゃあ、お先にどうぞ?」
男の子は一瞬目を細めた後、不敵に笑った。何だか見下されているようで、嫌だったけど早くこの状況について聞きたかったから先に質問することにした。
「じゃあ1つ目!ここはどこ、君は誰、何であたしはここに居るの?」
「3つじゃん。」
困ったように笑った男の子に、そこは気にしないで。と言うと、又笑った。良く笑う男の子だな本当。
「此処は俺達の家、俺は星野 光、君が倒れていたから連れてきた。以上。」
「俺達?」
あたしが怪訝な顔で首を傾げるとセイヤくんはウインクをして、俺の他に二人一緒に住んでんだ。と答えた。三人暮らし、か。
「次俺良い?」
「どーぞ。」
セイヤくんは小さく笑うと、いきなり真面目な表情をして射るように目を見つめて話し出した。
「君の名前は?」
「上原 碧。」
「何で追いかけられてたんだ?」
追いかけられてた?
セイヤくんの言ったこの発言にあたしは眉を寄せた。何で追いかけられてた事しってるんだろう…。見てた、のかな?
急に黙り込んだあたしに、彼は心配そうな表情を浮かべた。
「碧?」
「え…あぁ。ごめん、わからない。最近変な奴に殺されかけてばっかりで…あたし間が悪いらしいし多分偶然だと思うから狙われてるわけじゃないと思うけどね。」
渇いた笑みを溢してセイヤくんを見ると、難しい表情で顎に手を添えて何か考え込んでいる様子だった。
不思に思ったあたしはセイヤくんの顔を覗き込んでみたら、バチっと目が合ってしまった。セイヤくんは微笑んであたしの頭をくしゃりと撫でた。
「もう遅いし、送ってくよ。」
「え、いいよ!一人で帰れるから!」
「ダーメ。」
ムッとした顔でセイヤくんを睨み付けたけど、全く気にしてないみたいで無理矢理手を掴まれた。
「また変な奴に追いかけられるの嫌だろ?」
「……嫌だけど、でも大丈夫だよ。」
「はいはい。」
結局暫しの押し問答の末、いつまで経っても帰れないからと折れたあたしはしぶしぶ彼に家まで送ってもらった。門扉に手を掛け、不本意ながら送ってもらったことにお礼を言うと彼は爽やかな笑みを浮かべ踵を返した。遠くなっていく後ろ姿を眺めながら、あたしは彼の名前を呟いた。
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