プリズム | ナノ






放課後の人通りの少ない中庭に老若男女問わずその歌声と端麗な容姿で世間の注目を浴びる超有名な三人の美男子と特に際立った容姿でもないごくごく普通の女の子が何やら話合っていました。

「別荘?」

大気手作りのお弁当を片手に今しがた卵焼きを口に放り込んだ星野がもぐもぐと咀嚼しながら目をぱちくりと瞬かせた。

「二泊三日ですか。」

大気は読んでいた本を一旦閉じると考えるように目を伏せた。

「む、無理だよね?」

顔の前で手を併せて不安気に三人を見つめた碧に星野は腕を組み眉間に皺を寄せて、うーんと唸った。大気も顎に手を添えて困った表情を浮かべている。結果は火を見るよりも明らかだった。碧はたまらず声を上げた。

「無理しなくていいよ!忙しいと思うし、」

困ったように力なく笑う彼女に星野と大気が顔を見合わせた。

「無理なんて一言も言ってないでしょ。」
「夜天?」
「…え?」

それまで黙って木陰に座っていた夜天は何時もの彼らしくない発言をしたことで一斉に注目を集めた。それでも彼は何でもないようなどこか冷めた表情を崩すことなくミネラルウォーターを喉に流し込んでいる。大気は軽く目を見開き、星野も驚いた表情で夜天へ視線を送った。

「来週なら空けれるよ。」
「え、」

夜天の発言に戸惑い、あたふたと顔を左右に振る碧に大気が小さく微笑んだ。

「……そうですね、マネージャーに言えば何とかなります。」

無理だと思っていた碧は急な展開に付いていけず、困惑して助けを求めるように星野へと視線を投げ掛けた。彼はにや、と笑うと立ち上がり碧の肩に手を置いて、決まりだな。と言うとウインクを投げた。

「う、そ…本当に?」
「嘘なんかついてどうするのさ。」
「そ、そうだよね…何だか自分に都合よく脳内変換してるんじゃないかと思って。」

へらり、と笑って言った彼女に星野と大気はくすくすと笑い、夜天は呆れた表情を向けた。

「ええと、詳しくはまた今度…って、もう学校ないんだった。」

難しい表情で何やら考えている碧に、星野は制服のポケットからケータイを取り出して見せた。途端に彼女の表情が明るく晴れていく。瞳を輝かせ、あぁ!ケータイがあったね!と名案が浮かんだように、嬉しそうにパンッと手を叩いた。
連絡先を交換する二人を横目に、ケータイ以外でどうやって連絡とるつもりだったの、と呆れたように呟いた夜天に大気が苦笑いを浮かべた。


碧は三人の連絡先を登録すると、大事そうに握りしめた。国民的スーパーアイドルの連絡先が入ったことで、なんの変哲もなかったケータイがとても重たく感じた。このケータイ、絶対落とせないな、と碧は固く心に誓った。

「じゃあ、また連絡するね。」
「忘れないでよ。」
「だいじょーぶ、任せて!」

笑いながら敬礼をしてみせた碧は次は教室移動だから、と昼休みもそこそこに校舎へと戻って行った。
彼女の姿が見えなくなってから、星野と大気は不思議そうに木に凭れかかる夜天を見遣った。

「夜天、一体どうしたんですか。」
「何が?」
「何がって…、まさか自分で気付いてないのか?」
「だから何のこと?!」

二人が何のことを言ってるのかわからなかった夜天は不愉快そうに痺れを切らして声を荒げた。
そんな彼に二人はきょとんとして、顔を見合わせ笑った。

「安心しましたよ。」
「あぁ。」
「…わけわかんない。」

夜天は立ち上がりをペットボトルを手に掴むと二人を置いてスタスタと校舎へと戻って行った。
大気と星野は校舎へと消えていく彼の背中を見つめながらどこか嬉しそうに微笑んでいた。