プリズム | ナノ


あたしは驚きのあまり叫び出しそうになった声をごくりと飲み込んでネオンライトで光り輝く煌びやかなステージを凝視した。今まで生きてきた中でこんなに驚いたのは…多分そうないと思う。(勿論、ファージという変わった生き物に襲われた時は吃驚したけど、変な人って最近結構いるからその類だと思っていた。)


目の前の光景を見て口が塞がらない。顎とか外れそうだ。うん、落ち着こう…落ち着けあたし。今日はスリーライツのライヴを見に来た。途中色々あったけど、はるかさんのおかげで無事に目的地へ着いた。南に引っ張られながら会場入りした。チケットをよく見てなかったから席がどこかわからなかったけど、そこは南に引っ張られてたから問題なかった。着いた席は最前列の左端。前列だよ、すごいとこ来ちゃったな、なんて呑気に思ってた。会場入りした時渡された袋から、薄っぺらい冊子を取り出してスリーライツの姿を見ておこうと開いてみたけど生憎シルエットのみでした。仕方ないから始まるまでスリーライツの姿を見ることはお預けだな。なんて考えながら南と喋ってたら会場が暗くなり、音楽が鳴り始めた。舞台袖が左にあるため、暗闇でもスリーライツが出てくるのが見えた。ドキドキと上がる心拍数。自然と南と手を握りあった。徐々に沸き上がる黄色い声援。パッと明るい光が舞台上を照らした。黄色い声援はピークに達した。当然あたしの隣にいた南も絶叫。でもそんな中あたしは口をぽかんと開けて、目の前にいる二人に釘付けになった。

そんなまさか、これは夢なのか。いや、いやいやいや。何で?何で知り合いがマイク持って舞台上にいるのか。
驚きすぎて何の言葉も発さないまま舞台を凝視していたあたしに気付いたのか、今日、屋上で会話したばっかりの銀髪の彼の綺麗な萌黄色の瞳と目が合った。そりゃもうばっちりと。夜天くんは一瞬驚いた表情をしたかと思うとふっと鼻で笑った。いや、笑われた。最初に会った時の夜天くんの意味深な言葉が蘇ってきて、こういうことだったのか。と妙に納得した。知らなかったとはいえ、ファンの子達には何を言われても仕方ないことしてるな、なんてぼんやり考えて背筋を震わせた。
あたしが惚けているうちにイントロが流れ出した。バスに乗っている間予習していたからピンときた。歌詞がすごく印象的で頭から離れなかった、
流れ星へ、というタイトルの曲だ。
真剣に歌う三人を見つめて、紡ぎだされる一つ一つの言葉を聴き逃さないように耳を澄ませた。
まるで誰かに訴えかけるように、切実な願いを届けるように歌うこの三人の表情にぎゅうっと胸が締め付けられた。他の曲とは違う。本当に彼等の心が叫んでいるような、訴え掛けるような歌声に鳥肌が立った。誰に向かって歌っているんだろう。どうして皆そんなに切ない顔をしてるのだろう。あたしは気付かないうちに手を握り締めていた。
ふ、と間奏中に夜天くんと目が合った。
一瞬の時間だったのに、あたしには一時間、ううんそれ以上の時間に感じたのはその時の夜天くんが、あまりにも切なそうだったから目が離せなかったせいだと思う。


アンコールが終わり暗くなった会場で舞台袖に去っていく夜天くんはあたしに向かって何かを投げつけた。コツンとあたしの額に当たったそれを見てみると、ギターのピックだった。額を押さえながら顔を上げるともう夜天くんの姿はなかった。



「ライヴ楽しかったね!!スリーライツ最高!」
「うん、楽しかった!」

南と歩いてバス停に向かう間ライヴの興奮が冷めず、ずっと語り合っていた。どうやら南は星野くんファンのようだ。何度も星野が星野が、と頻りに熱く話している彼女の隣であたしはその横顔を見ながら相槌を打った。
あたしもすごく楽しかったし、本当にあの場所に行けた事を嬉しく思った。驚いたけど、スリーライツとしての二人を知れた事が妙に嬉しかったのだ。だけどやっぱり脳裏に浮かぶのはあの時の三人と夜天くんの何かを求めているような、苦しげで切ない顔だった。どうしてだろう、気になって仕方ない。

「碧?」
「…南、『流れ星へ』って曲あったでしょ?あれって何か……誰かに歌ってるみたいじゃない?」
「あぁ、確かそうよ。スリーライツはある人にメッセージを届けたくて歌手になったって聞いたことあるわ。雑誌にもそれっぽいこと書いてあったし…。それがどうかしたの?」
「ううん、ちょっと気になっただけ。ある人に届けるため、か…。届いたら良いよね。」
「そうね。…ねぇそれより、MCの時の星野ね〜」

再び星野君について語りだした南。興奮状態で熱弁している南を見て笑みが溢れた。余程好きなんだな、と改めて感じさせられる。
ふと、視線を夜空に向けるとキラキラと輝く星が広がっていた。

(三人の歌が届きますように。)

ポケットに入れたピックを握り締めて瞬く星に祈った。