プリズム | ナノ






黄色いオープンカーの助手席に乗った碧は風に弄ばれる髪を耳に掛けて空を見上げた。太陽が真っ赤に染まり街を橙に包んでいる。ちら、と隣を盗み見ると気持ち良さそうにハンドルを握り車を走らせるはるかの姿に胸が高鳴った。日が暮れていて良かった。少女はそっと息を吐いた。
「どうかした?」
「えっ?」
碧の心臓が跳ね上がった。
「僕の顔に何か付いてる?」
はるかが前を向いたまま柔らかい口調で言う。
「いえ、そうじゃ、なくて…」
少女ははるかを直視出来ず視線を泳がせた。そんな少女の姿をはるかは横目で見ながら小さく笑った。
「そうじゃなくて?」
顔を赤くさせた碧を見ているとついつい意地悪をしてしまう。はるかは言い淀む少女が口を割るようにわざと催促するように言った。
「っ、は、はるかさんが、」
「僕が?」
「その、…何というか……っ、あ!!」
碧は何か一つの希望を見つけたかのように大きな声を上げた。
「はるかさん、ここまでで大丈夫です!」
少女は約束していた公園を指差した。はるかは内心つまらなかったがこれ以上苛めるのも可哀想だと思い、必死さが如実に顔に出ている少女を見やり苦笑いを浮かべた。
「残念だな。僕はもっと碧といたかったよ。」
「え…、」
切なさそうに自分を見つめるはるかを見て少女は息が詰まるような感覚がした。自分がこの人をこんな顔にしてしまっている。そう思うと胸が痛くなった。
「ちょっとだけ、」
少女は少し俯いたまま言葉を紡ぐ。
「はるかさんさえ良ければ、ちょっとだけ話を聞いてくれませんか?」
先程とは違い少女の声は強く、凜としていた。何か大切な事を話そうとしているのだろう。はるかは瞳を細めた。