プリズム | ナノ






遠い孤独な星だった。君が僕の前に現れるまでは…。



降り続く星の光がレースのカーテン越しに見えた。心地よい沈黙を破って少女がふわりと笑って言った。
「温かいね…」
「ああ…」
ウラヌスは肩の出た少女にシーツを掛けて微笑んだ。誰かと共に寝るなど一体何時ぶりだろうか…、そもそも共に寝た事等あっただろうか…。遠い過去の記憶を手繰り寄るウラヌスに少女が言う。
「私誰かと一緒に寝たことなんかないなぁ。」
寝るって事がなかったから、とポツリと溢した少女は恥ずかしそうにはにかんだ。ウラヌスは少女の華奢な肩を抱いた。肌に伝わる少女の温もりに心までじんわりと温かくなるのを感じた。少女の優しい香りが腕の中一杯に広がる。ウラヌスは心がひどく落ち着くのを感じながらそっと瞼を閉じ、少女と初めて出会った時の事を思い出した。突然現れた少女はまるで天使のようだった。孤独から救いに宙(そら)から舞い降りて来たかのように思えた。ウラヌスはふと漠然とした不安を覚え瞼を開け、腕の中にいるソールの存在を確かめるように名前を呼んだ。
「何?」
自身を見上げるソールの姿を見つめて、安堵の笑みを溢したウラヌスはそっと少女の額に唇を落とした。慌てる少女の姿が可愛くてこのままずっとこの腕に閉じ込めておきたいとウラヌスは思った。
「ウラヌス、」
「ん?」
温かく柔らかい感触が頬に降った。ウラヌスは一瞬理解出来なかったが、悪戯が成功した子供のように笑う少女を見て頬にキスをされたことに気が付いた。
「ソール」
「ねぇウラヌス。」
少女の手がウラヌスの頬に触れた。
「私はウラヌスの側にいる。ウラヌスを独りになんかさせない。ずっと、側にいるよ。」
不意に視界が滲んだ。心がぎゅうっと掴まれたような感覚がする。ウラヌスは泣いてしまいそうなのを瞼を閉じる事で何とか堪えた。閉じた瞼の裏に孤独な自分の姿が見えた。ずっと、独りだった。この星でたった独りで戦い続けてきた。死ぬまで独りだと思っていたのに、初めて温かさに触れるとこんなにも脆い。独りは嫌だ。寂しい。微かに肩を震わせるウラヌスの背に少女はそっと腕を回し、肩を濡らした雫に気付かないふりをして瞳を閉じた。どうか彼女が幸せでありますように。少女は彼女の腕の中、銀河を巡る流れ星に願った。