プリズム | ナノ






夜空に散りばめられた小さな星達が銀河の海へと流れて行く。今夜は流星の夜だ。瞬きをしている間に星は次から次へと滑り落ちていく。少女は白く無機質な部屋の開け放たれた窓からあの夜空と同じ漆黒の長い髪を風に揺らして真っ直ぐに流星群を見つめていた。彼女は私を少しでも必要としてくれただろうか。そうであるなら少なくとも私は報われたのだろう。このままあの銀河の塵になったとしても厭わない。ゆらりと長いレースのカーテンが揺れる。少女はしかし微動だにしなかった。針は寸分狂わぬ動きでその時を示していた。部屋のドアがゆっくりと開く音を聞きながら少女は瞳を閉じた。聞き慣れた足音が少女の後ろで止まった。
「ソール」
静かに呼ばれた名を、少女はこの声を忘れないように耳に焼き付けた。ふ、と息を吐いた少女は振り返り彼女の紺碧の瞳を見て薄く笑んだ。
「もう、行かなくちゃいけないんだね。」
ウラヌスを困らせたくはない。ソールは彼女の横を通り過ぎると彼女と初めて出会った城の庭園へ向かって歩いた。少女がいなくなった部屋でウラヌスはきつく握った手を解き自嘲気味に笑った。


風がざわめき葉が大きく揺れる。
少女の周りを銀色の光が包んでいる。あの流星群と同じ光だ。眩い光にウラヌスは目を細めた。ふわり、と宙に浮いた少女はウラヌスを振り返った。ソールの瞳は今にも泣き出してしまいそうだった。ウラヌスは目を見開いた。喉元まで迫ってくる言葉を堪えるのに精一杯だった。
「ウラヌスに、会えて良かった。私絶対忘れない。」
じゃあ、ね。短く告げられた別れの言葉と共に背を向けて高く上昇していく少女の体が急に止まった。少女は驚いたように振り向きその動きを止めている彼女を静かに見つめた。
「……、」
彼女は自分がしていることに彼女自身でも驚いている様子だった。
「…ウラヌス」
「っ…すまない」
ぱ、と離された手を、今度は少女が掴んだ。ウラヌスは俯いていた顔を上げた。風が騒ぐ音が耳に届く。けれどウラヌスは少女から目を離せずにいた。まるで時間が止まったみたいだ。ポタリ、と落ちた滴が彼女の手に当たった。
「ウラヌス、本当の事を言って。」
震えた声だった。けれど決意のある強い眼差しだった。
「私は望んでここに来たの。ウラヌス、貴女の声が聞こえたから…だから私此処に来た。…言っていいんだよ。我慢しなくていいの。隠さなくていい。…ウラヌス、言って。」
「……っ、僕は、」
堪えていたものがすぅ、と溶けていく気がした。気がつくとウラヌスは少女の手を引ききつく、きつく抱き締めていた。
「……此処に居てくれ…っ」
絞り出したように出た彼女の本音の言葉に少女は嬉しそうに微笑み、答えるように抱きしめ返した。
優しい風が二人を包み、葉が祝福するように踊った。流星は泣かない彼女の涙のように夜空を流れて行った。