プリズム | ナノ






その夜彼女は窓辺で星空を見上げていた。風がふわりと部屋に舞い込み、彼女に囁くように頬を撫でて過ぎて行く。風の声を聞いたウラヌスは瞳を揺らし瞼を閉じた。
星の周期が巡る夜が来る。


冷たい回廊を歩くウラヌスの表情はいつになく曇っていた。彼女はある一室の扉の前まで来ると小さく息を吐き部屋に入った。白いベッドに眠る少女の穏やかな寝顔を見てウラヌスは心がチクリと痛むのを感じた。誤魔化すように少女の名を呼びその漆黒の髪を掬い上げた。まるで絹糸のような繊細さだと手に掬ったそれを見て彼女は思う。その時小さな唸り声がして視線を少女に向ければまだ眠気眼のソールが目を擦りながら掠れた声で彼女の名前を呟いた。
「ウラヌス…?」
少女の自分を呼ぶ声にまたウラヌスは胸が痛むのを感じた。
「あぁ…お早うソール。」
「おはよう…ウラヌス。」
とろんとした眼の少女にウラヌスは苦笑いを溢し、しかし直ぐに辛そうな表情で少女を見つめ返した。眠気の覚めない少女もそんな彼女の変化に気付き小さく首を傾げた。
「ソール…、」
ウラヌスが喉から絞り出したような声で、苦しそうな表情で言った。
「仲間の元に帰るんだ。」
静寂が流れた。少女には周りから色も音も時さえも消え失せた無の空間に思えた。こんなにも彼女に近いのに手を伸ばしても届かない程遠くに感じた。止まった心臓が動き出した時血が逆流でもしているような感覚が襲った。少女のシーツを掴む細い指先が震えている。ウラヌスはそれに気が付きながらも視線を少女から床へと逸らした。
「ど、どうして…突然」
「今日の夜、流星群が流れる…。君は望んでこんな所に来たわけじゃない。仲間の元に帰るなら今日しかない。」
「……ウラヌスは…平気、なの?」
私がいなくても平気なの?力なく呟いたその声は震えていた。ウラヌスは長い沈黙の後短く肯定の言葉を吐いて部屋を後にした。
彼女の残酷な一言にソールはシーツにくるまり声を殺して涙した。少女は解っていた。ウラヌスが全て自分の為に言ってくれているということに。けれど受け入れられなかった。自分を還すためとはいえ、自分が不要な存在だと言われた事が何よりも辛く悲しいものだったのだ。