プリズム | ナノ






窓から見える景色を眺めるのが少女の日課になりつつあった。静かな部屋に本を捲る音だけが響く。ウラヌスは少女が倒れてからというもの朝食を摂るのも読み物をするのも彼女の部屋で行うことにした。最初こそ監視されていると感じていた少女も今では自身を心配してくれているのだと気付き彼女を受け入れはじめていた。
「ウラヌス。」
静かな部屋に凜とした声が響いた。ウラヌスは本から窓際に立つ少女へ視線を移し、降り注ぐ白い陽の光に目を細めた。
「お庭に出てみたいの。」
じっと城下を見つめる少女は彼女に振り向かないまま言った。
「草しかない庭に?」
ウラヌスは本を閉じため息混じりに言ったが、少女はそれでもいいと間髪入れずに言い放った。
「私、自然を見るのは初めてなの。あんなに綺麗な緑も今まで見たことない。」
「ソール…」
ウラヌスは白い光に包まれる少女の後ろ姿を見つめた。彼女の透き通るような白磁の肌が光によってより一層白く見える。このまま彼女が光に呑まれて消えてしまいそうな気がしたウラヌスは咄嗟に少女の手を掴んだ。血が通い温かな手の温度を感じた彼女はそっと安堵の息を吐いた。
「ウラヌス?」
不思議そうに彼女を見上げるソールはどこか焦ったような表情を浮かべる彼女の手をぎゅっと握り返した。
「…外に出ようか。」
「いいの…?」
「ああ。」
少女を見たウラヌスは一瞬目を見開いた。彼女はこの時初めて少女の笑顔を見たのだ。嬉しそうに瞳を輝かせるソールに彼女はこんな風に明るく笑うのかと知った。自分の手より一回り小さな少女のそれを握ったままウラヌスは少女を連れて部屋を出た。

朝の光は目を刺すようだ。眩しい光に軽い目眩を覚えたウラヌスが力を抜いた瞬間繋いだ手がぱっと離された。走り出した少女に手を伸ばしたがウラヌスは直ぐにそれを戻した。花が綻ぶような笑顔を浮かべて瑞々しく光る緑を見つめている少女を見ていると自分まで自然と笑顔になっていることに気付き驚いた。一体いつから笑っていなかったのだろう、上手く笑えている気がしない。難しい顔をしているウラヌスの元にひょっこりとソールが顔を覗かせた。
「ウラヌス、ウラヌス。」
少女の呼ぶ声に彼女はさ迷っていた意識を取り戻し、ゆっくりと少女に目を向けた。
「ここは風が優しい。ウラヌスみたい。」
ふわり、と笑う少女はまるで花のようでウラヌスは自分の心が安らぐのを感じながら草の付いた少女の頭を優しく撫でた。