プリズム | ナノ





白く何もない部屋だ。少女はベッドの上で額に腕を乗せ天井を見つめた。あの流星群の夜から五日が経った今日も少女はこの部屋から一歩も出ないままじっと時が過ぎるのを待った。朝は窓から日の光が射し込むけれど夕方になればこの場内は真っ暗になる。人の気配がしない、孤独な城だと少女は思った。時折この城主である少女を拾った女性が部屋を訪れたが、わかったことは彼女の名前だけだった。それ以上は何も教えてくれはしない。
「………ウラヌス…か、」
何を考えているのかわからないあの瞳が怖い。少女は彼女を思い浮かべてぎゅっと体を抱き締めた。
「…ソール。」
ノックもせずに無遠慮に入室したウラヌスに少女、ソールは飛び上がった。今しがた思い浮かべていた人物が現れたのだから当然驚く。ドキドキと嫌な意味で早鐘を打つ心臓を押さえて、落ち着かせた少女はなんとか平静を装いウラヌスに向き合った。
「…また朝食を食べなかったのか…。」
ウラヌスはテーブルに置かれた手の付いていないそれを見やりため息を吐いた。少女は妙に居た堪らなくなり自分の爪先を見つめた。「その内倒れるぞ」
「……いいんです」
「良くないだろ。こんなに痩せて」
ぐい、と少々強く腕を引かれたせいで少女は顔をしかめた。ウラヌスを睨もうと彼女に向けた目は突然大きく見開かれ、少女は前屈みに倒れ込んだ。口元に手を当て逆流してくるモノを必死に戻そうとしていた少女の身体がふわりと浮いた。
大きく舌打ちをしたウラヌスが顔を真っ青にした少女を肩に担ぎ上げ衝撃を与えないように優しくけれど素早く部屋から運び出した。


逆流したモノを限界まで押さえていた少女はとうとう吐いてしまった。涙を瞳に溜め苦し気に咳き込む少女の背中を優しく擦りながらウラヌスは自分を責めた。少女をこんな目にあわせたのは他でもない自分自身なのだ。ウラヌスは手を握りしめた。漸く落ち着いた少女は流れる水を一掬いして口に含み吐き出した。
「…大丈夫か?」
「ごめんなさい。…汚してしまって…」
「構わないさ。僕の方こそ…悪かった…」
少女はきょとんとした表情でウラヌスを見上げた。何故彼女が謝っているのか理解出来なかったのだろう。自分を見上げる少女の頭を優しく撫でたウラヌスは少女を抱き上げると再び部屋まで運び、一度部屋を出て暫くしてから片手に何かを持って戻って来た。
「食べられる?」
差し出されたものはグラスに入った林檎のゼリーだった。スプーンに一掬いしたそれをウラヌスは少女の口の前まで持って行った。少女はウラヌスとスプーンを交互に見やった。躊躇っているのだと解った彼女は少女に向かって一度深く頷いた。すると少女は小さく口を開けその中に差し出されたゼリーを流し込んだ。ちら、とウラヌスを見た少女はドキッとした。安心したように向けられる微笑みが、いつもの冷たい表情とは全く違っていたのだ。少女は余計にウラヌスという人物がわからなくなった。本当の彼女はどちらなのだろうか。