プリズム | ナノ







「へぇ〜。美少女戦隊かぁ…」
「美少女戦士ね。」
「うさぎ、無駄よ。自分の世界入っちゃったからその子。」


遡ること二十分前、何でレイちゃん達が変わったコスプレをしてあの変な生物と戦っていたのかを問い詰めた。最初は誤魔化そうとしていた二人だったけど、あたしがあの生物に何度も殺されかけていることを話せば表情が一変した。二人の真面目な顔に少し困惑したけど、とにかく何か関係あるかもしれないし、と無理矢理理由をつけて聞き出すことに成功した。レイちゃんは観念したように、うさぎは仕方なくといったように困ったような笑みを浮かべていた。聞いてみて初めてわかったことはたくさんあった。まず、うさぎやレイちゃん、美奈子ちゃんに亜美ちゃん、まこちゃんがセーラー戦士とかいうこの地球を守る愛と正義のヒーローだということ。最初は何とかごっこでも始めたのかとも、正直おもったけど二人は至って真剣でその目は冗談じゃなく、ましてや嘘なんな吐いていないとはっきりとわかるほど強く真っ直ぐだった。
そして、よくあたしに襲いかかるあの生物はファージっていうちゃんとした固有名詞があることがわかった。
ファージは元は人間でスターシードっていうものを抜かれた人がなってしまう姿…らしい。ファージになった人間は殺すしか出来ないらしいんだけど、うさ…セーラームーンだけは元の人間に戻すことが出来るんだって。すごいなぁ、うさぎ。


「じゃあ、あたしも入隊しよう!」
「う〜ん」

良いことを思い付いたと言わんばかりに声を上げたあたしの隣で少し形の潰れたロールケーキを片手にうさぎが項垂れた。

「無理よ」
「何で?!!」

きっぱりと言い切ったレイちゃんへ詰め寄ったあたしに、彼女はずいっと顔を近づけあたしの額に自分の額をくっつけ、眉間に皺を寄せて言い聞かすように「選ばれた者しかなれないからよ。」と、わざと一文字ずつ区切って言った。額を離したレイちゃんはしれっとした顔でお茶を飲んでいる。あたしは唇を尖らせて恨めしげに彼女を見つめた。

「わかった!あたし勝手にセーラー戦隊作る!」
「バカなこと言わないでよ。」

呆れたレイちゃんの隣でうさぎはひたすらロールケーキを食べていた。ちらっと見るとタッパにはロールケーキが残り二つ。その内の1つにまたうさぎの手が伸びた。

「レイちゃん、あたしは至って真面目。いつだって真剣だよ。」
「……誰かこの馬鹿を止めて…」

哀れみと呆れを込めた目線。深い深いため息を吐いたレイちゃんは投げやりに、精々頑張りなさいよ。と言った。
何故か疲れきったレイちゃんはロールケーキに手を伸ばしたけれどそれは宙を虚しくさ迷い目的のロールケーキを掴むことがなかった。怪訝に思ったレイちゃんは隣で嬉しそうにロールケーキを食べるうさぎを凝視した。
うさぎが最後の一口を食べ終わったと同時にレイちゃんのげんこつが頭に直撃していた。

「あ!ねぇ、マーズ!」
「レ・イ・ちゃ・んっ!」
「……レイちゃん様」
「何?」

頭を押さえて踞るうさぎをほったらかしてあたしはレイちゃんに、あのめちゃくちゃ寒そうな恰好をしたヒーラーのことを話した。するとレイちゃんは厳しい顔をしてあたしに、その人たちとは関わってはいけない。と告げた。だけど踞っていたうさぎが突然起き上がりレイちゃんの腕を掴んで諭すように、悪い人達じゃないよ。と言った。その表情は優しく、穏やかだった。その表情を見た瞬間頭にノイズのようなものが走った。けれど何なのかはっきりわからず、一瞬にして映像は消えてしまった。

「…碧ちゃん?」
「…………え?」
「どうしたのよ?ぼーっとして…」
「え、や…何か……。…やっぱり、何でもないや。」

小さく笑うとレイちゃんが怪訝な顔をして、うさぎはまだ心配そうにあたしの様子を伺っていた。二人の反応に焦り大袈裟な身振りで、本当何でもないよ!意識飛んでたみたい!と言うとレイちゃんはため息を吐いた。あたしは苦笑いをして何とか話題を戻そうと無理矢理話を降った。

「それで、そのヒーラーって人…あ!もう21時だ!!帰らなきゃ!」

はっ、と立ち上がったあたしは荷物をまとめ始めた。するとうさぎも勢いよく立ち上がって、ママに怒られる!!と叫ぶと先に帰って行った。相変わらずそういうことにだけは俊足になるんだようさぎは…。嵐のように去って行ったうさぎの後を追うようにあたしも急ぎ足で玄関に向かった。

「じゃあ、ごめんねレイちゃん散らかして。」
「いいわよ、それより碧…」
「ん?」
「スターライツには…気をつけて。まだ何者かわからないし、目的も定かじゃないの…。だから…」
「うん…、ありがとうレイちゃん。」

言いにくそうに言葉を一つ一つ選んで言ったレイちゃんはあたしのことを本当に心配して言ってくれてるんだと思った。気をつけます、と言うとレイちゃんは漸くほっとしたような表情を見せた。


手を振ってレイちゃんの家を後にしたあたしは家に帰った後もレイちゃんとうさぎのあの会話とあのノイズが引っかかって眠れないでいた。