プリズム | ナノ

「……レイちゃん、うさぎ…?」

あたしが見た人影は悲鳴をあげた人ではなく、赤いセーラー服を着たレイちゃんとセーラー服を着て背中から羽が生えたうさぎが何かと戦っている様子だった。でも…見る限り戦っているというか………逃げてます。避けてます。
あたしはうさぎ達が戦っている相手を目を凝らして見た。

「…!あいつ…!」

あたしが見た者は正しくいつもあたしを追いかけてくる謎の生物と同類のモノだった。

「レイちゃん!危ない!!」

考えるよりも先に身体が動いていて、いつの間にかあたしは驚いて振り向くうさぎ達の間をすり抜け、勢い良く駆けてくるあたしを見てぎょっとした表情を浮かべた変な生物に回し蹴りをかましていた。倒れた変な生物を見下ろし、気絶していることを確かめてほっと息を吐いた。

「大丈夫だった?」

後ろに振り返ると唖然としたうさぎとレイちゃんの姿。口をパクパクとしているうさぎを魚みたいだ、と笑っているとガシッとレイちゃんに肩を掴まれた。驚いて目を見開いたあたし。レイちゃんは顔を険しくしていた。

「危ないじゃない!いきなり飛び出してきて…!何もなかったからよかったけど、何かあってからじゃ遅いのよ!!」
「ご、ごめん……なさい。」
「…バカ碧」

二人を助けるために自分がした行動を怒られた事に落ち込んでいるとレイちゃんは小さくため息を吐いてあたしの頭を軽く小突いた。

「セーラームーン。」

レイちゃんがうさぎに視線を送るとうさぎは力強く頷いた。きっとこの姿の時は"うさぎ"じゃなくて"セーラームーン"って名前になるのかな。戦隊ものアニメを彷彿とさせる呼び名について自分なりの解釈をしているとうさぎが長いロッドを出現させた。

「スターライト・ハネムーン・セラピー・キーッス!」

まばゆい光が未だ倒れていた変な生物を包むと、変わった雄叫びを上げたその生物は至って普通の人間に姿を変えた。

「……えっ!!あれ、え!人間?!!」
「そうだよ。元は人なの。」

セーラームーン、基うさぎが悲しそうに弱々しく笑った。レイちゃんも気まずそうに視線をふいっと地面へ向けた。二人ともすごく複雑な面持ちだった。これ以上聞くことが出来ないような空気が三人を包んだ。妙な沈黙が訪れたことに気付いたあたしは話題を変えようと声を発した。

「…えー…と、あ!そうだレイちゃん!あのね、ロールケーキお母さんが持っていけって!!だから持ってきたの!三人で食べよ!」

ね!と二人の手を握って言うと、途端に先程のシリアスな雰囲気は吹き飛び、うさぎはケーキ?!と目を輝かせ、そんな彼女をレイちゃんは呆れたように見ていた。

「はぁ…ったく。じゃあ、あたしの家行くわよ。」

レイちゃんは変身を解くとスタスタと先頭切って歩き出した。うさぎも変身を解いてレイちゃんの後を追い、あたしに手招きして早くー!と叫んだ。あたしは持っていたロールケーキを気にしながら小走りで二人の元へ向かった。