何を求めているの?




夜。
私は中々眠れず部屋を出て庭を歩いてみることにした。
月は雲と雲の間から顔を覗かせ、辺りは少し明るい。

風も少し冷たく、肌寒い。
庭を歩く度に葉っぱの音を踏むがする。
ちょっと歩いて私は一本の木を見つけた。
その木は他の木とは違って少し大きめ。

風が吹いてその木や辺りにある木々が小さく揺れる。
目を閉じれば木のざわめく音。
星も、月も輝いていて何とも絵になる。
私はその大きな木に寄りかかりながら座り、足に顔をうずくませる。

トリップして何日たっただろうか。
多分2週間ぐらいはたったはずだ。
昨日の虹、そして空を見て前の世界のことを思い出した。


笑いあって喧嘩した友達。
何だかんだ言いながらも世話を妬いてくれた家族。
挨拶すると優しく微笑んでくれる近所の人達。
嫌なことだって沢山あった。
後悔したことだって何回もある。

だけどその分楽しかった思い出が沢山ある。


ねぇ。
神様は私に何を求めているの?
私に何をしろっていうの?

確かに銀魂の世界は憧れていた。
平凡な私には非平凡な生活は憧れた。

でもいざとなってトリップしたら悲しいものなんだよ、寂しいもの。
身の回りの人は一人もいない。
知り合いは違う世界。
会える日はもうないかもしれない場所。



私はいつ戻れるの?

戻れる日は来るの?



けど……ここにいたいって思うのは我が儘、かな。

銀時君や晋助君、小太郎君。
そして松陽先生や寺子屋の子供達。

みんな優しくて、とても良い人で一緒にいるだけで心が温かくなる存在。
私はどうしたらいいのだ。
私は強くなんかないし、未来を変えることだって出来ない。
……いや、未来は私が来ただけで少しは変わってるかもしれない。


いや、少しどころじゃない。
殆ど変わっているはずだ。
でも、きっと変わってないだろう。

みんな、ちゃんと一人一人の道を歩んで行くのだ。
それだけはきっとそうだ。
そう、私は信じたい。
私はここの世界に来た。
なら、何をすれば正解に繋がるのだろうか。
あっちの世界ではどうなっているのだろうか。



私はいつの間にか頭を抱えていた。
サワサワと風の音だけがする。

……駄目だ。
考えるだけで頭がクラクラする。

私は小さく深い溜息をし、月を見上げた。
あぁ、月はあんなに目立って堂々としている。
私は闇のように暗く、影のように目立てない。
堂々とこの場で生きていけない。

でも、少しくらいは堂々とこの世界で生きていいのかな?
だって私は勝手にこの世界に連れられてきた存在なのだから。
それに、私はもう初めてここに来た時からもうここでちゃんと生きるって決めていたじゃないか。

今さら悩んだって何にも変わらない。
悩むのは止めよう。考えるだけ無駄なのだから。

私はまた小さく溜息を落として部屋へと戻る。
途中、晋助君と会った。
今日、晋助君はここに泊まるからいるらしい。
晋助君はドアの縁に座っている。どうしたのだろうか。


「風邪ひくよ?」


「………」



駄目だ。何も話してくれない。

私は晋助君の隣に座る。
晋助君の顔を見たら、その顔は本当に困っていた顔で、何故か少し泣きそうな顔でもあった。
また話しかけてみようと思ったが、先に晋助君が口を開いた。



「お前は……、菜緒はいつも…あんな苦しんでいるのか?」



さっきの姿を見られたのだろうか。
全然気づかなかった。

それに、私のせいで晋助君が困っているなんて。
最低だな、私。



「違うよ、今日はちょっと遊び疲れちゃって」



馬鹿だよねー、と笑って頭をかきながら言う。
いつもの癖。笑いながら嘘をすんなりと言う。
心配をしてほしくないから。

心配されたら晋助君はまた今にも泣きそうな顔をするんでしょう?
だから、もう心配されたくない。



「嘘つき」



晋助君の意外な言葉に目を丸くする。



「今日遊んだだけであんなに頭抱えたりするか?むしろすぐ寝るだろ」



何て感がいい人なんだろう。
すごいな。
でも私的には絶体絶命的な立場。



「……確かにね。でもね、これは私にとっての問題。今の晋助君にはちょっと難しい話なんだ。だから、また今度話訊いてもらってもいいかな?」



黙りだす晋助君。
それは、固定と取ってもいいのだろうか。
晋助君の曖昧な返事に疑問を持ちながらも私は口を開いた。



「ねぇ、晋助君は月って好き?」


「……月?」


「うん」


「…好き」


「どうして?」


「きれい、だから」


「だよね。私も綺麗だから好き。太陽よりも綺麗に、おしとやかに光ってるもん。でも、もう一つ好きな理由があるんだ」



理由?と訪ねてくる晋助君の言葉に頷く。
そして空を見上げて微笑んだ。



「夜になったら、目立ってるから」


「目立ってる?」


「うん。私も月のように目立ちたいなって。きれいに輝いて目立ちたいなって思ってね」



まぁ、無理だけどと笑いながら晋助君の方を向く。
するといきなり腰の所に腕を巻き付かれた。
所謂、抱きつかれたのだ。


「菜緒はもう目立ってる。綺麗に、俺達の先生として目立ってる。だから……悲しい顔すんな」


「…っ…!」



まるで心を見透かされたようなことを言われたから心底驚いた。
でも、さっき苦しんでいたことが嘘のように心が温まった。
私は晋助君を抱き締め返す。



「ありがと、晋助君」





((私、やっぱりまだここにいたい…))



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