買います



只今私は江戸中を歩いています。
周りを見渡せば天人、天人、天人、天人、人、天人。
うわっ、あのタコこっち見た、気持ち悪っ。
顔を歪めながら歩いていたからなのか隣を歩いていた土方さんが「大丈夫か?」と言ってきた。



「大丈夫です。ただ天人がキモいだけです。おえっ」


「……天人見たことねぇのか」


「まさか。毎日のように視界に入れてますよ。私の故郷にも一応居ましたしね。ただ私達人間の食料が二足歩行したり喋っているのが気持ち悪いだけです」


「……」



有無も言えぬ土方さんは此方を顔を歪めながら見ている。
ついでに言うと、先頭を歩く近藤さんはさっきから口癖のように「お妙さん」と連呼している。
どうやら会いたいらしい。
最初近藤さんは良い人だと思ったけど、私の勘違いだった。
近藤さんを信じた私が本当に馬鹿でした。
いや、まじで。

あの後、近藤さんに案内したい場所があるから付いてきなさいと言われて今の状態に至る。
私の右横には土方さんが、目の前には近藤さん、という形で江戸を歩いているのだ。



「あの…何処に向かっているんですか」


「もうちょっとで着くぞ!」


「いや、話噛み合ってませんけど」



もう一度訊いてみるが、矢張り答えは同じだった。
ナメてるのかな、このゴリラ。
イラッとしながら顔を引きつらせていると突然「着いたぞ!」と言い出した近藤さん。
急に立ち止まったから近藤さんにぶつかりそうになったが、慌ててぶつからないように急ブレーキをかけ、ギリギリのところで止まった。

土方さんの方に目を向けてみると、どうやら目の前にある一軒家を見ているらしい。
近藤さんの方にも目を向けてみるが、全く同じ場所を見ている。

その一軒家とは、何処にでもありそうな木造建築の家で、二階もあり、一人暮らしには少し大きすぎる家だった。
ぱちくりと目を瞬きながら、近藤さん、土方さん、そして目の前にある家を交互に見る。



「あの…近藤さん。この家は…?」


「あぁ、紹介しよう!今日から此処が君の家だ!!」



まるで買ったペットにでも言う台詞のように、満面の笑みで私に言う。
呆気に取られた私はポカーンという効果音付きで、口をあんぐりと開けながら、その家を見た。

此処が私の…家?
いや、確かに家は無いとは言ったけど流石に家を貰うのはちょっと…。



「…遠慮しておきます」


「えぇ!?」



何で!?とも言いながら私の肩を掴み、ぐらぐらと揺らしだす。
顔を歪めながら近藤さんに止めてください、と言うが全くの無視。
何も喋らず空気的存在だった土方さんに助けを求めようと視線を合わしたが、煙草を吸っている為矢張り無視。

何この警官達。
無視とか本当に警察官ですかこの人達。
いや、煙草吸ったりストーカーしてる時点でこの人達警官じゃねぇよ。
寧ろこいつ等犯罪者だよ。
牢屋にぶち込んでやりたいよ。



「あの、ちょっ、酔う。気持ち悪、い、です」


「実乃ちゃん!何が駄目何だ!!俺は家がないと言った君の為にこの家を用意し…」


「またシカトですか。話くらい聞けやゴリラ」


「え、今実乃ちゃんゴリラって言った?言ってないよね?」


「言ってないに決まってるじゃないですかー」


「だよね〜。あはははは」


「あははははー。んで、家入りませんから」


「えぇ!?」



ゴリラに反応して、一瞬揺らすのを止めたかと思いきや、再び驚いた顔をして、私の肩を掴む。
揺らすつもりはないらしい。良かった。
苦笑いしながら当たり前ですと言うと、近藤さんはえー…と言いながら土方さんを見た。

土方さんは、溜息混じりに煙草の煙りを吐くと、此方に体を向けた。



「近藤さん…あんたが間違ってる」


「え?何で!?俺何かした!?」


「普通に考えりゃーわかるだろ!!普通は家何てプレゼントしねーよ!!」


「えぇ!?でも家無いって言ってて可哀想だったし、この家丁度誰も住んでなくて壊そうとしてたのを100万くらいで買ったし…」


「「100万!?」」



家なのに100万!?
安っ!!何で一軒家なんにそれもちょっと綺麗な家なのに…。

まさに開いた口が塞がらない状態で、家を見る。
矢張りどこからどう見てもちょっと使った新築にしか見えない。
なら何故そんな安く家が買えたのだろう。
疑問に思い土方さんに視線を向けると、総悟が脅したと呆れ顔で言ってきた。

あぁ、成る程。
それならかなり納得だ。

だがそれと、とまた付け加えてくる土方さんに私は再び視線を向けた。



「私、その家買います」





(お得な物は買っておくべきです)




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